政策シンポジウム他

企業経営環境の変化とセーフティネット

イベント概要

  • 日時:2002年11月19日(火)10:00~17:30(開場9:45)
  • 会場:RIETIセミナールーム
  • 開催言語:英語(日本語同時通訳つき)
  • 「育児支援」セッション議事概要

    「育児期のキャリア形成からみた就業支援政策の長期的効果」

    横山由紀子氏(神戸商科大学)は、近年の離婚率・失業率の上昇により専業主婦が抱える潜在的リスクは大きく、突然に経済的自立を迫られることもあると述べた。分析結果から30代という比較的若い育児期にキャリアを形成するかどうかが今後の所得や勤務する職場環境に大きな影響を与えるという指摘が行われ、政府には企業のファミリー・フレンドリー制度運営への支援等が求められるとの指摘が行われた。また女性側の労働市場の状況(年齢制限等)への厳しい認識も求められるという指摘も行われた。

    「育児休業制度が女性の労働供給に与える影響の分析」

    森田陽子氏(名古屋市立大学)は、育児休業制度の労働供給への影響は正の影響(就業継続、人的資本蓄積等)と負の影響(労務コストの上昇、継続就業者の増加による新規採用の抑制)があると考えられると述べた。分析結果から育児休業制度の運用は企業にとってコスト増、新規の女性労働者の採用を抑制する一方、女性の就業継続に対して育児休業制度は有効であるとの指摘が行われた。また、育児休業制度に伴う企業負担に対する考慮、ファミリー・フレンドリー企業に対する優遇措置の検討の必要性が述べられた。

    「子育て支援制度と育児期女性の就業継続行動」

    周燕飛氏(国立社会保障・人口問題研究所)は、就業継続を支援することの意味として、育児期のフルタイムとしての就業継続が彼女らのその後の人的資本の形成と生涯賃金の期待総額を大きく左右することが挙げられると述べた。これは、男女共同参画社会の実現にとりわけ重要な位置を占めると指摘が行われた。分析結果からは、多くの母親が育児期にフルタイムの仕事を辞めており、就業継続型のキャリアコースにいる女性が少ないことが確認された。またさまざまな企業内育児支援制度の中では、女性再雇用制度と育児休業制度の実施有無が退職するかどうかの選択に影響を与えていると述べた。

    樋口氏のコメント

    最近の女性の就業には変化が起こっている。以前の不況のときは女性の求職率が低下するのが一般的であったが最近は不況であるにもかかわらず女性の求職率が低下する傾向が見られないと述べた。長期化する不況のなか、男女共同参画社会を進める必要があると述べた。横山氏へのコメントであるが、パートと正社員の2者選択モデルではなく、専業主婦を含めた3者選択モデルを用いて推定を行う方が望ましいのではないかと指摘した。また「パート労働者」の定義によっては結果が変わってくる可能性があると述べた。次に、周氏へのコメントである。女性の就業に前向きな企業は積極的に育児支援を行っているが、そういう企業では女性の定着率が高いので退職率が低いという同時性バイアスをどうするのかが問題となると述べた。また今回の分析に用いたデータでは育児期に正社員として継続して働いている女性数の値がかなり低く、他のデータとの整合性を考えてみる必要があると述べた。次に森田氏へのコメントであるが、森田氏の論文は非常にチャレンジャブルな論文であり、今回の推計が正しいのならば育児休業制度のしわ寄せ(女性の新規の採用を控えること)に対する対策を考えなければならないと述べた。ただし、今回の分析では産業別の入職率を用いており労働供給ではなく労働需要を推計していることになっているのではないかと述べた。

    武石氏のコメント

    育児休業制度の女性のキャリアへのインパクトについては、育児休業制度は継続就業を志向する女性への就業支援策として機能したが、育児期の女性の労働供給を増加させることへの寄与は小さいのではないかのかと述べた。次に、育児支援制度はどのタイプの労働者に有効なのかについては、高等レベルの学歴の女性の労働力率で見ると男性とのギャップが縮小しているが、低学歴の女性には及んでいないと述べた。また、高学歴者、勤続の長い女性(高い人的資本の蓄積)が就業を取得している一方で男性と同様のキャリアの総合職女性は育児休業取得が難しいケースもあると述べた。次に、育児支援制度の企業にとってのコストと効果であるが、育児支援が企業にとってコスト増につながるのであれば、助成制度の必要性の根拠となるが、一方で企業にとってのメリットもあり、助成制度導入には慎重な意見を述べた。そして、セーフティネットとしての育児支援制度のあり方については、現行の休業制度による対応だけでは限界があると述べ、柔軟な働き方(短時間勤務、在宅勤務等)による就業しながら育児のできる環境の整備、再就職市場の整備が課題になると述べた。

    (文責:宮里尚三)