新春特別コラム:2019年の日本経済を読む

信用保証制度の改革-中小企業支援の強化につなげられるか-

家森 信善
ファカルティフェロー

2018年4月に始まった新しい信用保証制度

中小企業の経営の改善発達を促進するための中小企業信用保険法等の一部を改正する法律が2017年6月に成立し、2018年4月から施行されている。この改正の目的は中小企業に対する支援を充実させて、中小企業の生産性向上を実現することである。具体的な改正内容のうち、主なものは次の通りである。

(1)危機関連保証の創設
リーマンショックのような大規模な経済危機や東日本大震災のような大災害に際し、迅速に発動できる新たなセーフティネットとして、危機関連保証を創設した。その際に、ズルズルと続いてしまった緊急保証の反省を踏まえて、原則として適用期間を1年と限定した。

(2)小規模事業者への支援拡充
小規模事業者の経営が急変した場合に、新規資金の調達を容易として、経営の立て直しを可能とするように、特別小口保険の付保限度額を拡充(1250万円→2000万円)した。

(3)創業関連保証の拡充
創業期は信用保証による支援が特に必要なライフステージだと考え、創業関連保証の付保限度額を拡充(1000万円→2000万円)し、信用保証を通じた創業支援の姿勢を明確に示した。

(4)信用保証協会における出資ファンドの対象拡大
すでに、信用保証協会は再生ファンドには出資できるが、新たに再生ファンド以外のファンドに対しても出資を可能にした。

(5)信用保証協会と金融機関の連携
中小企業の経営改善や生産性向上を一層進めていくために、信用保証協会と金融機関との連携を法律上に位置づけて、中小企業のそれぞれの実態に応じて、プロパー融資(信用保証なしの融資)と信用保証付き融資を適切に組み合わせ、信用保証協会と金融機関が柔軟にリスク分担を行っていくことを求めることとした。

(6)信用保証協会における経営支援
中小企業に対する経営支援業務を信用保証協会の業務として法律上に明記し、相談体制の強化を図った。

求められる信用保証協会の取り組み

法改正の趣旨に沿って、中小企業の生産性向上を持続的に実現させていくためには、信用保証協会はさまざまな課題に取り組まなければならない。主な課題として次のようなものがある。

(1)金融機関との適切なリスク分担の実現
改革法では、企業の状況に合わせてプロパー融資を求めることとしており、柔軟性を持たせた仕組みである。柔軟であるが故に、金融機関のモラルハザードを防いで、企業支援の努力を引き出せるかが、各信用保証協会に課せられた重い課題である。

(2)創業・再生支援等の難しい「本業」を担う人材や態勢
信用保証協会に求められる役割は大きくなっており、それを担えるだけの人材や組織体制を構築しなければならない。地域に貢献したいと思って入社した協会職員にとって、新しい役割は、難しいが、「やりがいのある」仕事である。やる気のある職員が能力を高めて、その力を発揮できるような環境を築くことが求められている。

(3)健全な経営の維持
保証債務残高の減少にともなって、保証料収入が減少している。一方で、保証協会に新たに課せられた支援業務はそれ自体として収益を生まない。余力のある間に新しいビジネスモデルを確立しなければならない。

(4)IT化(効率化、迅速化)
これまでボリュームの大きかった成長期の企業に対する保証が減っていくとすると、経費を削減することは不可欠である。また、保証業務の迅速化は中小企業から強く望まれている。ITやフィンテックを上手に活用することが求められている。

(5)一層の情報開示の工夫
中小企業庁を通じて、保証先企業に対するプロパー融資の状況なども開示されるようになり、金融機関のモラルハザードの防止に役立つと思われる。一方で、信用保証制度に対する国民の理解を得るためには、地域経済にどのように貢献しているかがよくわかるような情報の発信が必要であろう。各協会の工夫が必要である。

(6)危機時の対応への備え
大規模経済危機や大災害時に、信用保証協会の真価が問われる。経費を削減する必要がある一方で、そうした事態に迅速、的確に対応できる態勢を保ち続けなければならない。

今後の中小企業金融のあり方を左右する一年に

改革法が施行されて1年もたっていないが、施行前から全国の信用保証協会は積極的に対応を進めてきており、これまでのところ順調に取り組まれていると評価できる。ただ、表面的な対応は進んでも、中小企業の生産性向上にまで結びつかなければ、成果が出たことにはならない。「始め半分」と言われるように、改革は最初が肝心である。2019年に上記にあげた課題にいかに対応できたかが、2019年以降の中小企業金融のあり方を左右することになろう。

2018年12月26日掲載

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