新春特別コラム:2018年の日本経済を読む

2018年温暖化交渉の展望と課題

有馬 純
コンサルティングフェロー

2018年は「物事を決めねばならない年」

2018年は温暖化交渉で「物事を決めねばならない年」に当たる。パリ協定は2015年12月に合意され、2016年11月には早くも発効したものの、これを実際に運用するためには国別目標に盛り込まれる情報やプレッジ&レビューの進め方など、詳細ルールが必要になる。これを2018年のCOP24で合意することを目指している。

昨年11月のCOP23では「詳細ルールに関するこれまでの議論をまとめたインフォーマルノートをテークノートし、両議長が2018年4月にリフレクションノートを出す」といった議論の手続きを合意したのみだ。結論文書に添付されたインフォーマルノートは各国の立場を全て盛り込んだ250ページを超える膨大なものであり、内容面の収斂は全くない。2018年、両議長が出すリフレクションノートが交渉テキストの形態をとるかどうかも不明であり、仮にそうだとしても加盟国があれこれコメントして分量が膨らむことになろう。

このため、COP24のいずれかのタイミングで議長国ポーランドが落とし所を注意深く見極めた議長テキストを出すことが必要になる。問題はポーランドがパリ協定合意の際にフランスが発揮したような外交的手腕を発揮できるか未知数な点だ。今年の交渉の進み方如何ではCOP24において詳細ルールに合意できない可能性も排除できない。もちろん、現時点でこの可能性を表立って口にする者はいないが、パリ協定は2020年以降の枠組みを想定して作られたものであり、ルール合意が2019年にずれ込んだとしても「間に合って」しまうのだ。

昨年6月には米国トランプ政権がパリ協定離脱を表明し、国際社会に衝撃を与えた。しかし、米国は国益の観点からパリ協定の詳細ルール交渉には引き続き参加しており、COP23でも大事なポイントではきちんと発言していた。トランプ政権のポジションにかかわらず、米国が参加できる枠組を作ることは非常に重要だ。

今次交渉の大きな構図は「二分法を維持し、緩和関連の負担を最小限にし、あらゆる局面で先進国からの支援を引き出したい途上国」と「共通のフレームワークの下で途上国にも緩和努力を求め、支援負担を抑制したい先進国」の対立にある。したがってたとえば先進国は支援強化を受け入れ、途上国は先進国との差別化を最小限にしたレビューを受け入れるなどのパッケージディールができなければ決着しない。COP23で途上国は2020年までの資金援助の進捗状況のレビューや公的資金援助の予見可能性を含め、さまざまな資金問題を強く打ち出したが、これは最終的なパッケージの中心軸を自分たちに有利にすることを狙ったものだ。米国が資金援助に背を向ける中で、途上国支援を交渉材料にした決着は決して容易ではない。

見本市化するCOPと自縄自縛に陥りやすい日本

2018年は促進的対話(透明性・調和を意味するフィジー語をとって「タラノア対話」とよばれる)が行われる年でもある。促進的対話はパリ協定の目的(1.5℃〜2℃安定化)に照らして自分たちの立ち位置を確認し、今後の向かうべき方向などを議論することを目的とする。本年9月頃に発表されるIPCCの1.5℃特別報告書がインプットとなるため、各国の現在の目標では全く不十分という議論が生じ、目標引き上げ圧力がかかることになろう。

目標数値が交渉対象となった京都議定書と異なり、パリ協定はプロセスを管理するが、目標設定は各国に委ねている。こうした中で各国が「良い格好」を競うCOPの見本市・美人コンテスト化が進みつつある。プレッジ&レビューは一度出した目標はきちんと守らないと国際的に面目を失うという「name and shame」に立脚したシステムだが、「高い目標を設定しないと恥ずかしい」という仕掛けもビルトインされている。グローバルストックテークやタラノア対話において、1.5℃〜2℃目標を達成するためには現在のNDCでは不足だというメッセージが繰り返されるだろう。こうした圧力への耐性は各国により千差万別であろうが、日本はその真面目さゆえに身の丈を超える目標値を提出し、その達成のために自縄自縛になるリスクが最も高い。先般の広島高裁判決の事例にあるように原発の再稼働、運転期間の延長への道は決して平たんではなく、26%目標の更なる引き上げは非現実的でしかない。大幅削減は野心的な目標設定でもたらされるものではなく、必要な技術が十分競争的で利便性の高いものになって初めて実現する。日本が目指すべきは技術開発目標であるべきであり、京都議定書以来、温暖化論議を支配してきた空虚な削減目標ではない。雰囲気やムードに流されず、足元の状況をしっかり見据えた現実的な対応が必要だ。

一方的な石炭悪玉論にはエネルギーの現実に立脚した反論を

今次COPで目立ったのは脱石炭連合の発足に代表される石炭悪玉論であり、日本の途上国に対するクリーンコール技術輸出も批判された。しかしこれは1E(環境)のみを重視する一方的なものであり、アジア諸国が自国の経済発展のためにクリーンな石炭利用を必要としているのは明らかだ。脱石炭連合が参加国を増やそうとしている中で、3E(経済、エネルギー、環境)の観点から、各国の実情に応じ、クリーンコール技術を含む技術ミックスを支援するという現実的なアプローチを志向する国との連携を模索すべきだ。

国境を超えたアプローチの発信を

日本の政府、産業界は経産省の長期低炭素プラットフォームに盛り込まれた「三本の矢」の考え方を国際的に提唱していくべきである。現在、国連で行われている議論は、生産ベースの国内削減量削減、各産業バウンダリー内の削減に捉われているが、「美人」の尺度は国内排出削減目標だけではない。クリーン技術の海外移転による貢献、優れた技術、中間財をグローバルサプライチェーンに供給することによる貢献、イノベーションによる貢献の考え方は従来とは異なる新たなアプローチを提供するものだ。三本の矢を国連の枠組みやルールに反映させることにこだわる必要はない。日本の貢献を透明性のある方法で試算し、対外PRするという図太さが求められる。

2018年1月4日掲載

この著者の記事