新春特別コラム:2017年の日本経済を読む

2017年日本経済の鍵となる「ロシア経済」

藤 和彦 上席研究員

パイプライン建設に関するFS実施で合意

2016年12月15日から2日間ロシアのプーチン大統領は11年ぶりに訪日し、5月のソチの首脳会談で安倍首相が提案した「8項目の経済協力」に沿った事業の具体化で合意した(民間を含む日本側の経済協力の総額は3000億円規模になる見込みである)。

2017年の世界経済については、トランプ新政権の経済政策(トランポノミクス)や中国経済の動向、原油価格の推移などに注目が集まっているが、筆者は「ロシア経済」という含み資産をどのように活用できるかが2017年の日本経済の成否に大きな影響を与えるのではないかと考えている。

8項目の経済協力に関する合意について筆者が注目しているのは「エネルギー」の項目であり、特にサハリン〜北海道間の天然ガスパイプラインの扱いである。

日本の大手メデイアは報じていないが、ロシア側のメデイアは積極的に報じている。

12月16日付露インターファックスは「15日山口県長門市で開催された首脳会談のワーキングディナーで両首脳はサハリン〜北海道間の天然ガスパイプラインの建設プロジェクトへの相互の関心を確認し、経済主体のレベルで同プロジェクトの詳細な検討を活発化することで合意した」と報じた。

同17日付露コメルサントも来日したガスプロムのミレル社長が「ガスパイプラインについては議論が進んでおり、近い将来(日本側からの)交渉を受けるだろう」とのコメントを伝えている。

一方、日本側のガスパイプライン建設の主体はいまだ決まっておらず、政府がこの合意をメディアに対しブリーフィングしなかったため、日本国内ではこの事実がほとんど知られていないのが現状である。

確かに日本側の主体は確定していないものの、「サハリンからパイプラインで供給される天然ガスを利用して北海道内で幅広く分散型熱電供給網の整備を図る」取り組みに関心を有する大手企業も出てきており、同事業にロシア企業の積極的参加を期待している。

パイプラインが敷設される北海道の沿線都市(旭川市や札幌市など)で熱電併給(コ・ジェネレーション)事業が実施されれば、北欧並みの快適な生活が実現され、北海道の潜在力(観光や酪農など)を活かす地域経済の発展に大きく寄与することは間違いない。

ドイツとロシア経済の緊密化をもたらしたパイプライン

日ロ両国が「パイプラインでつながる」ことは、両国間の経済全体のレベルを大きく押し上げる効果があると筆者は期待している。

1970年代初頭の西ドイツ(当時)は東方外交(東独を含めた東欧諸国との関係正常化を目的とした外交政策)や化石燃料の中東依存脱却の観点から、同国が有するパイプラインの技術と引き換えに旧ソ連で産出される天然ガスをパイプラインで輸入する決定した。現在に至るまでドイツは自国で消費する天然ガスの3分の1以上をロシア産天然ガスに依存しているが、このパイプラインは「ドイツの再統一」を始め旧ソ連と西欧諸国との冷戦終結に寄与したと言われている。

2014年3月のウクライナ危機以降、政治面でEUはロシアに対し経済制裁を科すなど厳しい情勢が続いているが、欧州企業はガスプロムとの間でノルドストリーム(バルト海を経由してロシアとドイツを直接つなぐ天然ガスパイプライン)の拡張に合意している。

中でも注目すべきはドイツの中小企業にとってロシア市場は格好の輸出先になっていることである。EUの経済制裁以降ロシアへの輸出額が大幅に減少しているため、ドイツの中小企業は政府に対し経済制裁の緩和を強く要求している。

パイプライン建設から40年が経った現在、ドイツとロシアとの間の経済関係は非常に緊密になっているが、その礎を築いたのはパイプラインだったのである。

ロシアを西北の「第2の豪州」にする

そのロシアで「東方シフト」が始まっている。本来は欧州国家であるはずのロシアがアジア太平洋地域への関心を深めている。

21世紀に入りロシアは公共投資主体の成長を続けてきたが、今後資源価格が低迷を続ければ公共投資の財源を捻出することはますます困難になる。ロシア政府は現在「脱・資源輸出依存」を模索しているものの、製造業育成も外資が頼りというのが実態である。

しかし資源依存型の経済は本当に「悪」なのだろうか。

OECD加盟国の過去30年の経済成長を調べてみると、最も安定成長を遂げているのは豪州経済である。農産物や鉱物資源の輸出に依存していても、品目のバランスがとれていて、供給能力が高ければ問題は少ないということだろう。

豪州経済の成功を見ると、ロシアは苦手の製造業を追いかけるより資源輸出の競争力を強める方が合理的に思えてくる。

豪州が日本からの投資の呼び込みに成功したのは、「オープンで透明な制度」であり、日本側もインフラ輸出で潤い、まさにWin-Win-Winの関係が構築できたからである。

ロシアの極東・東シベリア地域は輸送インフラの整備と課題を抱えているため、短期的な視野では豪州のような成長モデルとなるのは困難である。

ロシア側が投資環境の整備を真摯に進めることで、需要国(日本)と供給国(ロシア)が相互依存するような関係を構築していくべきである。

このことは日本にとっても、ロシアが資源の安定輸入国であるばかりか「インフラの大輸出国」となることを意味し、日本の西北地域に「第2の豪州」が誕生すると言っても過言ではないのである。

このように2017年はサハリン〜北海道パイプラインを起爆剤にして、ロシアを日本経済の成長エンジンの1つに位置づける最初の年となるのではないだろうか。

2017年1月6日掲載