新春特別コラム:2017年の日本経済を読む

研究・開発費のGDP算入は資源配分に影響を与えるか?

田村 傑 上席研究員

1.はじめに

2016年に於いては、日本人がノーベル賞を昨年に引き続き受賞した。また、新たな元素の合成に成功して、日本にちなんだ名前を付けた元素(元素番号:113、Nh:ニホニウム)の登録が行われることとなった。いずれも基礎的な研究成果と言える内容であり、日本の基礎研究に於ける強さを示す成果であると言えよう。研究成果の側面からみた場合に研究・開発投資は成果につながってきている。

研究・開発の実施には、実施に係る資金が必要である。この資金の量を把握することは、研究・開発政策の国際比較や、研究・開発の程度を議論し政策立案につなげる上で重要である。日本では2016年11月まで研究・開発費はGDP算出には算入されていなかったが、2016年末からGDP計算に参入されることとなった(注1)。各国のGDPの算出は国連で合意された国民経済計算に関するルールに基づいて行われている。この変更は日本に於いても研究・開発費のGDP参入を行う国際基準2008SNAの適用が開始されたことによる(政府と民間の研究・開発の両方を含む)。新たな会計への対応は豪州、カナダ、米国、フランス、英国、ドイツで先行して行われており、2017年には新たな方式に基づく算出結果が様々な政策議論に於いて本格的に反映されていくことになる。GDPは一般の人々がよく接する経済指標であることから、本変更は重要な意義を有すると思う。この変更の内容ともたらす影響について述べたい。

2.変更の概要

2008SNAの主な変更点は以下のとおりとされている(注2)。
(1)非金融(実物)資産の範囲の拡張
・研究・開発(R&D)の資本化 等
(2)金融セクターのより精緻な記録
・雇用者ストックオプションの記録 等
(3)一般政府や公的企業の取扱精緻化
・一般政府と公的企業との間の例外的支払の取扱の精緻化 等
(4)国際収支統計との整合
・財貨の輸出入における所有権移転原則の徹底 等

このうちR&Dの関係の変更についてはその意義として以下のような説明がされている(注2)。
(1)R&D(知識資本)は、設備のように固定資産として蓄積され、生産活動に貢献する実態を反映
(2)国際比較可能性の向上(2008SNA対応が先行している国へのGDP水準への「キャッチアップ」)

3.変更のもたらす影響

研究・開発費をGDPに算入して公表された、2015年の名目GDP(暦年)では、研究・開発費相当としては19兆円分の増加がみられた(注1)。このような変化は統計上の問題であり、研究・開発の成果への直接的な影響は直ちには考えられない。しかしながら、副次的な影響が予想できる。

1つには、研究・開発の規模がより理解されやすくなることである。これまで研究・開発費は、総務省の実施している科学技術研究調査によって公表されてきた。研究・開発に関する政策立案者や研究・開発投資の経済性の分析を行っている研究者などが主に利用している統計であり一般にはなじみは薄い。エコノミストやマスコミ関係者が利用することは希である。このことは研究・開発のもつ情報が伝達されにくかったことを意味する。GDPの算出に研究・開発費が組み入れられることにより、情報の伝達が行われやすくなり、広い関心を集めることが期待できよう。研究実施主体の方からみれば、自身の研究活動がより理解を得られやすくなる。サイエンスコミュニケーションの視点からは、プラスの効果が期待できるであろう。

併せて、今後は研究の成果に加えて直接的なGDP成長への貢献といった観点も、暗黙もしくは明示に研究・開発の意義を判断する材料となると考えられる。このことは、公的な研究・開発に関する資金の配分にどのような影響をもたらすだろうか。オリジナリティが高く、結果が予測できない研究・開発を実施する場合には、成果が短期で得にくく、成果が得られても研究成果として一般に容易に認められにくいバイアスがある。基礎的な研究がおおむね、このような研究・開発に該当する。つまり研究成果の観点からのみの比較では、基礎研究は応用研究より短期的には良い評価を得にくいバイアスを持つ傾向がある。このバイアスを補正する効果を、GDP算出方法の変更がもたらす可能性がある。

4.仮説とまとめ

本変更により研究・開発投入額のGDP成長への直接的な貢献が、今後重視されるようになるであろう。まず、研究・開発投資の総額拡大が政策的な支持を得やすくなることが考えられる。これに加えて、現状より基礎的な研究の予算確保が行われやすくなることにつながる可能性があり、「本変更が基礎研究と応用研究の間の資源配分に、有意な影響をもたらす」との仮説を構築することができる。GDP算出方法変更が科学技術政策にもたらす影響を考察する際に本仮説は実証的に検証する価値があると思う。2016年末から開始された本変更により有意な政策立案がなされ、2017年に於いても日本発の研究・開発の成果が着実に得られることを期待したい。

脚注
  1. ^ 1)「平成27年度国民経済計算 年次推計 (支出側系列等)(平成23年基準改定値)」
    内閣府経済社会総合研究所(平成28年12月8日)
  2. ^ 2)「国民経済計算の次回基準改定と2008SNAについて」
    内閣府経済社会総合研究所(平成26年10月1日)

2016年12月28日掲載

この著者の記事