新春特別コラム:2016年の日本経済を読む

地域銀行のガバナンスに変化が現れるか?

家森 信善
ファカルティフェロー

進む政策保有株式の削減

2015年の日本の企業金融にとっての重大ニュースを選べば、6月のコーポレートガバナンス・コードの適用が上位に入るのは間違いがない。「独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべき」といった規程に注目が集まったが、副題にあるように、「会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために」、コーポレート・ガバナンスの実効性を高めることがその目的であった。

コーポレートガバナンス・コードは、政策保有株式について次のように規定している。

上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で主要な政策保有についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである。
上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準を策定・開示すべきである。

新聞報道などによれば、すでに大手企業や大手銀行が、保有の意義を説明できない政策保有株式の削減を加速化させている。たとえば、3メガバンクグループはそれぞれ数年内に政策保有株式の3割程度を売却する方針を明らかにしている。

政策保有株式の削減の影響を受ける地域銀行

金融庁の「平成27年度・金融行政方針」が、明示的に政策保有株式について言及していのはメガバンクの関連だけではあるが、コーポレートガバナンス・コードの導入は地域金融を担っている地方銀行・第2地方銀行(両者を併せて地域銀行と呼ぶ)にも大きな影響がある。第1に、ほとんどの地域銀行は株式を上場しているので、地域銀行自身が政策保有株式の保有者として明確な対応をとらねばならない。第2に、多くの企業や他の銀行に多額の株式を政策保有してもらっている立場でもあり、今後、そうした株式が市場に売却されると、新しい株主と向き合っていかねばならなくなる。

第1の点に関しては、『日本経済新聞』(2015年11月16日)によると、11月13日までに「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」を公表した82銀行のうち、9行が「削減・縮小する」あるいは「原則保有しない」と明記している。地域銀行の株式保有姿勢に大きな変化が見られる。しかし、同時に、「有力地銀を中心に持ち合い株見直しの動きが広がりつつある中で、中小規模の地銀を中心に全体の6割の銀行は、持ち合い株についての方針を示していない」(同)とも言え、様子見の銀行がまだ多いのも事実である。横並び意識の強い銀行界のことゆえ、出足は遅いが、2016年には具体的な動きが広がってくると予想される。

日本の地域金融の課題の1つが、地域におけるリスクマネーの供給である。本来は、各種のファンドによってその問題を解消すべきであるが、今のところ、地域での資金の流れは銀行が起点となっている。筆者は、地域銀行によるエクィティ的な性格の資金の提供が地域創生にとっても重要であると考えている。その点からいえば、今回のコーポレートガバナンス・コードの制定が契機になって、地域銀行が上場企業の株式投資で使ってきたリスク負担能力を、地域企業へのリスクマネーの提供に振りかえる余地が広がるのではないかと期待している。

政策保有株式を削減した後の資金やリスクテイク能力をどのように活用するかが、2016年以降の地域銀行経営の注目点である。

地域銀行の株主に誰がなるのか

一方で、地域銀行自身の株主についてもこれから大きな変化が起こりそうである。地域銀行の行動への影響という点ではこちらの方がインパクトは大きいかもしれない。

従来、メガバンクが地域銀行の株式を保有している例が少なくなかったが、メガバンクが保有を削減する株式の中には地域銀行株も当然含まれている(注1)。また、地域銀行同士の株式保有も同様に削減されていくことになる。さらに、大手企業も政策保有してきた銀行株式を手放し始めている(注2)。多くの株式が従来の安定株主の手から離れていくことは必至である。

それによりどのようなことが起こるだろうか。2016年4月に、三菱東京UFJ 銀行の持分法適用関連会社である大正銀行と、四国のトモニホールディングスが経営統合する予定である。この経営統合には、三菱東京UFJ銀行の政策保有株式の削減方針が影響したといわれている。この例のように政策保有株式の削減が進めば、地域銀行の経営再編の動きを刺激することは確実である。地域銀行の再編は地域企業の金融に大きな影響を持つので、この点からも政策保有株式の落ち着き先は関心を集めるだろう。

そうはいっても、再編のような形で政策保有株式の受け皿が用意されることは滅多にあることではない。地味ではあるが、これを機会にして、地域銀行の経営者は、経営理念を共有してもらえる地域の株主を増やしていくことが大事なのではないだろうか。

たとえば、第二地銀の宮崎太陽銀行は、「株主紹介(IR含む)への取組み」として、「地域の多くのお客様が当行株主になっていただけるよう、当行の地域貢献に関する情報発信と併行して株主紹介活動に取り組んでおり、今後は、株主やお取引先向けの経営説明会の開催など、情報開示(IR)の充実を図り、お客様が当行への理解をより深めていただくよう努めてまいります」と説明している(注3)。経営者が株主を選ぶような姿勢に対して異論があるかもしれないが、筆者は、地域金融機関として自社の理念に共感する株主を増やすことは当然のことだと考えている。取引先の中小企業に無理に購入させるのは論外だが、政策保有株式の削減という逆境をチャンスに変えて、本当に地元に密着するための株主政策を構築することを期待したい。

2015年12月21日掲載
脚注
  1. ^ たとえば、「メガバンク 進む地銀離れ 資本規制負担」(『産経新聞』2015年11月14日)。
  2. ^ たとえば、キッコーマンが千葉銀行の株式のほぼ半分を売却したことが報じられている。(『日本経済新聞』2015年7月17日)。
  3. ^ 同行が、公的資本を受け入れている関係で公表している「経営強化計画」(2015年8月承認分)を参照。

2015年12月21日掲載

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