新春特別コラム:2015年の日本経済を読む

女性クオータ制度への対応はじっくりと

川口 大司 ファカルティフェロー

安倍政権の続投により本格化する女性登用

2014年末の選挙の結果、女性の活躍推進を旗印に掲げる安倍政権の政権基盤は安定的なものになった。2015年は女性ポストの数値目標が課されるクオータ制度の導入が本格化するであろう。

いくつかの例をあげよう。2014年12月に発表されたコーポレートガバナンスコード原案の中には「上場会社は、社内に異なる経験・技能・属性を反映した多様な視点や価値観が存在することは、会社の持続的な成長を確保する上での強みとなり得る、との認識に立ち、社内における女性の活用を含む多様性の確保を推進すべきである」との原則が掲げられている。この原則に基づいて各企業は役員に占める女性比率を公開し説明責任を負うことになると報道されている。また大学評価の各種指標の一部として女性教員比率が取り入れられ競争的資金の配分に当たって考慮されるケースが増えている。このような政府の方針に対応して、北海道大学や九州大学などの有力大学では女性に限定した経済学者の公募広告が出されるなど採用現場にも変化がみられる。

このようなクオータ制度導入の流れに対して、女性の積極的な採用・昇進を数値目標で実現しようとするのは女性に対する逆差別を招き、女性に対する偏見を助長するという意見がある。たとえば自身が経営者として活躍してきた南場智子氏は随所で女性に対する優遇策は頑張っている女性に対して失礼であり、かえって女性管理職に対する偏見を助長しかねないと指摘している。女性経営者の声であるだけに説得力がある。

しかしそもそもクオータ制度の導入が検討されるようになった背景には、女性が差別的な処遇を受けているとの指摘があることを忘れてはならない。日本企業において女性が差別的な待遇を受けていることと整合的な結果を示す実証研究は相当数存在する(たとえばKawaguchi 2007, Siegel, Kodama and Halaburda 2014)。女性に対する差別にはいくつかの種類があるが、女性であるがゆえに早くに職を去ってしまうと判断し採用を控えたり、重要な仕事を任せるのを控えたりするという統計的差別がとりわけ深刻であると山口一男氏は指摘し、その克服を訴えている(山口 2014)。統計的差別が女性の活躍機会が限定されていることの原因であるならば、性別という安易な指標によらず労働者各個人の資質を判断するよう情報収集の努力水準を引き上げることで、採用基準や昇進基準を引き下げることなく適切な人材を採用したり昇進させたりすることは可能である。

海外でのクオータ制度の評価

クオータ制度の導入は統計的差別の克服につながるのか、あるいは単なる逆差別に陥ってしまうのか、すでにクオータ制度が導入されている国々で逆差別的な採用・昇進が行われているかどうかを評価した研究を紹介しよう。2000年にまとめられたサーベイ論文はアファーマティブアクションの結果として雇われたマイノリティは学歴など目に見えやすい基準でマジョリティに劣るものの、仕事への評価は必ずしも低くはないとしている。その理由として採用において一見するとわかりにくい特性にまで十分配慮することで良質な労働者を採用できている可能性があることや、マイノリティに十分な訓練機会を与えることでマジョリティに技能的に追いつく機会を与えている可能性があることが指摘されている(Holzer and Neumark 2000)。一方、短期間のうちに役員に一定の女性を採用するように求めたノルウェーでは、女性役員がいなかった企業の株価が下落したことも報告されている。これは技能が伴わない女性役員の登用によって企業業績が下がることを予想した投資家が多かったことを意味している。役員レベルの経営者を育成するには長い育成期間がかかることを考えると当然ともいえる(一連の研究のサーベイはSmith 2014)。

望ましい政策設計と対応でクオータ制度を生かせ

これら諸外国の経験も踏まえてクオータ制度導入にあたっての留意点を記す。まず政策設計にあたっては目標達成までの期間を十分に与えることが必要である。これは適切な人材の探索や養成に時間がかかるためである。そのため政策の長期的安定性が必要であり政権交代などで政策の枠組みがコロコロと変わるようなことがあれば政策効果は半減する。政策当局が企業に目標達成までの計画を提出させたうえで途中経過を公開する仕組みも有用であろう。

数値目標を課された企業や組織はどれだけの期間をかけて目標を達成すればいいのかを十分に検討することが大切である。中期的目標から逆算して年次計画を立て、その達成状況をこまめにチェックすることが欠かせない。また、人材育成や評価を行うのはそれぞれの現場であることを考えると、経営層や人事部だけが目標を叫ぶだけでは十分な成果は望めない。目標と現在の達成状況を現場の採用担当者・現場管理職と共有することが重要である。女性割合の目標を明確に意識するだけで、男女で同等の候補者がいる場合に女性を優先するケースが増え、採用・昇進基準を緩めることなく目標を達成することができることも多いだろう。加えて目標達成の締め切りが近づくにつれて、目標達成が危うい企業が優秀な女性を引き抜きにかかることも予想しなければならない。優秀な女性を確保しつづけるためには実力に見合った適切な処遇を与え、将来の見通しを伝えることがより重要になってくる。

クオータ制度の導入が女性差別の解消につながるのか逆差別を招いてしまうのかは政策設計の巧拙と数値目標を課された側の対応にかかっている。時間的な猶予を与えない突然の政策実行は女性に対する採用・昇進基準の安易な引き下げという逆差別を生む。逆差別が行われることは、女性に対する統計的差別を克服することにつながらないどころか問題をより深刻なものとしかねない。また逆差別が横行してしまうと、男性からの反発が強くなったり、女性の中で待遇に対する不平等感が蓄積したりして政策の方向を逆戻りさせる政治力学が働く可能性もある。そのため、数値目標を課された企業や組織も即座に安易な採用・昇進基準の引き下げで対応しようとするのではなく、時間をかけて優秀な女性を発掘し彼女たちへの訓練機会をより充実させることで対応するべきだ。じっくりと取り組めばクオータ制度の導入は女性の活躍機会拡大の起爆剤となるだろう。

2014年12月26日掲載

2014年12月26日掲載

この著者の記事