新春特別コラム:2015年の日本経済を読む

中小企業を活用したイノベーション・システムの改革

能見 利彦 コンサルティングフェロー

1. イノベーションのための中小企業への期待の高まり

近年、海外で、中小企業など小さな組織が重要との研究が増えている。Langloisは、19世紀の終わりから大企業が成長し、規模の経済や範囲の経済で大きな組織が競争力を持つ時代が長く続いたが、これは20世紀の終わりに終焉し、むしろ専門特化してネットワークで外部と連携する規模の小さな企業が競争力を持つ時代になってきたと主張している(注1)。また、イノベーションにおいて、中小企業には新技術の採用などで優位性があって大企業と補完的な関係になっているとの研究(注2)(注3)や他の企業や大学と連携することで中小企業の競争力が高まるとの研究(注4)(注5)などが多数存在する。ナショナル・イノベーション・システムの研究においては、近年、Geelsが、社会のコアとなる領域では既存の技術体系が社会システムと固く結びついているので直接の変革は難しいが、ニッチな領域で新技術が導入されることで社会全体に普及すると指摘しており(注6)、ニッチな市場の創造に長けた中小企業への期待は高まっている(注7)。

我が国においては、中小企業政策としては、1999年の中小企業基本法改正以来、我が国経済のダイナミズムの源泉として中小企業の強みを活用する方針を打ち出し、その研究開発支援などの政策が積極的に講じられている。しかし、大企業が産業界の研究開発費の94.0%(2012年度:総務省「科学技術調査報告」)を占めていることもあって、イノベーション政策は、これまで大企業中心に検討されることが多く、今後、中小企業活力を活用したイノベーション・システム改革の強化が必要になっている。

なお、本稿は個人の見解であり、所属する組織の見解ではない。

2. 中小企業の研究開発の光と影

中小企業においては、生産や販路開拓で経営トップがリーダーシップを発揮している企業が多く、研究開発を行う場合も同様である。事業戦略と研究開発戦略の双方を経営トップが担うために、両戦略が一体となっており、社内調整が不要なのでリスクへの挑戦が可能で、意思決定が早く、市場の反応に基づく軌道修正も容易である。そのため、機動性と柔軟性があるとの特徴(2000年度中小企業白書)を有し、研究開発を行う中小企業は収益性が高くなっている(2009年度中小企業白書)。

しかし、図1および図2に示すように、中小企業の中で研究開発を行っている企業の割合は必ずしも多くはなく、特に、近年、この割合が低下しているとの問題がある(注:これらの図で、従業員数1-299人の企業を中小企業とし、全産業とはこの総務省統計が対象とする産業のうち金融・保険業を除く全産業を指す)。

図1:研究開発を行う中小企業数
図1:研究開発を行う中小企業数
出典:総務省「科学技術研究調査報告」
図2:中小企業の中で研究開発を行う企業割合
図2:中小企業の中で研究開発を行う企業割合
出典:総務省「科学技術研究調査報告」

ただし、研究開発を行う中小企業の増減は激しく、最近、研究開発に着手した企業も少なくない。また、初めての研究開発で産学連携を行うなど、大学の力をうまく活用している中小企業も多く、その際に最も大切なのは経営者の積極性だと指摘されている(注8)。

3. 我が国のイノベーション・システムの改革に向けて

我が国の産官学の研究開発費は17.3兆円(GDP比3.7%)、研究者数は83.6万人(2012年度:総務省「科学技術研究調査報告」)、特許出願件数は37.4万件(2012年)(注9)で、いずれも世界でも高い水準にあり、投資のための金融も低金利が続いている。このように、我が国は、資金、人材、技術の全てでイノベーション環境に恵まれていながら、その成果の経済活性化への貢献での評価があまり高くないのは何故だろうか? 我が国のイノベーション・システムに不足しているのは何だろうか?

それは、「企業家精神」ではないかと考える。イノベーションによって新たな市場を創出するためには、リスクに果敢に挑戦する必要があるが、そのためには、企業家精神が不可欠である。企業家精神があれば、新規事業に必要な技術・人材・資金は、社内のみならず、ネットワークによって外部から入手する道も開かれる。

企業家精神は、企業の経営者にこそ求められるべきである。我が国の386万事業者の99.7%が中小企業(2012年)(注10)であることを踏まえれば、この点で中小企業経営者の役割は大きい。

また、中小企業経営者の企業家精神を鼓舞し、そのイノベーションを支援する上で、国の役割も重要である。経済産業省のイノベーション政策においては、産業構造審議会産業技術環境分科会研究開発・評価小委員会の報告書(2014年6月)で、国の研究開発プロジェクトや産業技術総合研究所による支援によって中堅・中小・ベンチャー企業を強化するとの方針が出され、そのための政策の強化に取り組んでいる。このような方針は極めて重要であり、国全体のイノベーション政策、具体的には2015年度に検討が進められる科学技術イノベーション基本計画においても、このような方向性が打ち出されることが期待される。

2014年12月26日掲載
脚注
  1. ^ Langlois, Richard N. (2007), The Dynamics of Industrial Capitalism: Schumpeter, Chandler, and the New Economy, New York, Routledge;谷口和弘訳 (2011), 「消えゆく手 -株式会社と資本主義のダイナミクス」, 慶應義塾大学出版会
  2. ^ Rothwell, Roy (1983), "The Role of Small Firms in the Emergence of New Technologies," OMEGA, Vol. 12(1), pp.19-29
  3. ^ Nooteboom, B. (1994), "Innovation and Diffusion in Small Firms: Theory and Evidence," Small Business Economics, Vol. 6, pp.327-347
  4. ^ Zeng, S.X., Xie, X.M. and Tam, C.M. (2010), "Relationship between cooperation networks and innovation performance," Technovation, Vol. 30, pp.181-194
  5. ^ Lipparini, A. and Sobrero, M. (1994), "The glue and pieces: Entrepreneurship and innovation in small-firms networks," Journal of Business Venturing, Vol. 9, pp.125-140
  6. ^ Geels, Frank W. (2002), "Technological transitions as evolutionary reconfiguration processes: A multi-level perspective and a case-study," Research Policy, Vol. 31, pp.1257-1274
  7. ^ 細谷祐二 (2014), 「グローバル・ニッチトップ企業論」, 白桃書房
  8. ^ 未来工学研究所, 平成25年度産業技術調査事業(中小企業の産学連携の実態と促進に関する調査), 2014年2月
  9. ^ 経済産業省産業技術環境局技術調査室, 「我が国の産業技術に関する研究開発活動の動向 -主要指標と調査データ- 第14版」, 2014年5月
  10. ^ 中小企業庁News Release, 2013年12月26日.
    http://www.meti.go.jp/press/2013/12/20131226006/20131226006.pdf

2014年12月26日掲載

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