新春特別コラム:2014年の日本経済を読む

どうすれば女性経営者・役員が増えるのか?

森川 正之
理事・副所長

女性の登用拡大に向けた動き

アベノミクスの第一の矢、第二の矢が2013年の景気浮揚に寄与してきたが、2014年以降、第三の矢の成果が期待される段階に入ってくる。労働力人口が減少する中、女性が労働市場で活躍する機会を拡げることは成長戦略の柱の一つとなっている。

日本の労働力人口は、自然体だと今後2030年まで年率0.8%で減少すると見込まれており、経済成長率を年率0.5%程度引き下げる影響を持つ。資本の成長寄与は長期的には全要素生産性(TFP)と労働投入の伸びで規定されるため、この経路を通じた間接効果を含めると成長率への影響はさらに大きくなる。こうした中、生産性向上が不可欠となっているが、労働投入量の減少を抑えることも重要である。

政府の『日本再興戦略』は、2020年に25~44歳女性の就業率を73%にすることを目標に女性の活躍を促進し、その一環として「役員や管理職への登用拡大(全上場企業においてまずは役員に一人は女性を登用)に向けた働きかけ」などを行うとしている(注1)。

女性役員をめぐる最近の研究

欧米では女性役員に関する実証研究が少なからず存在する。Ahern and Dittmar (2012)は、ノルウエー企業のパネルデータを用いた分析により、上場企業に対する女性取締役比率40%の義務化は企業価値の低下や営業成果の悪化をもたらしており、数量割当てはコストを伴うこと、また、この法制の適用を逃れるため上場企業が大幅に減少する一方で非上場企業が増加したことを示している。

デンマーク企業のパネルデータを使用して女性役員の決定要因を分析したParrotta and Smith (2013)によれば、デンマーク企業の役員総数に占める女性比率は12%で、6割の企業には女性役員が全くいない。既に取締役会に女性が存在する企業は、他の女性を追加的に取締役にする確率が非常に低く(「形ばかり(tokenism)」仮説を支持)、外部からの女性登用圧力は一層のダイバーシティを阻害すると論じている。Smith et al. (2013)は、同じデータに基づき女性の副社長(VP)およびCEOへの昇進確率を分析し、男性では育児休暇の取得が昇進に負の影響を持つが女性では影響がないこと、ファミリー・フレンドリー企業であることの女性の昇進への効果は確認されないこと、女性経営者の存在は他の女性の昇進に負の影響があることを示している。

これら北欧の国々はOECD諸国中トップレベルの女性就労率であり、それにも関わらずこうした結果が観察されることは驚きである。

欧州諸国や日本と異なり女性の就労率上昇が停滞している米国では、その理由をめぐって実証研究が行われており、Blau and Kahn (2013)は、欧州で育児休暇、パートタイム労働者の権利保護、保育所への助成といったファミリー・フレンドリー政策が拡充されたことが米欧の違いをもたらした主因であることを示している。ただし、女性の労働参加を促進する政策は、パートタイム雇用の増加、高い地位の女性の相対的な少なさといった意図せざる副作用を持っており、米国では管理職になる確率に男女差がないのに対して欧州では女性が管理職になる確率は男性の約半分だと論じている。

これらの結果は、女性の就労率を高めることと女性の管理職・役員数の増加とが必ずしも連動するものではないことを示唆している。

どのような企業に女性役員がいるのか?

ところで、「国勢調査」(2010年)によれば、日本全体で女性の会社役員は15万2920人、会社役員総数の14.5%である。男性に比べて圧倒的に少数だが、絶対数で15万人超という数字は意外に多いようにも見える。

15万人を超える女性役員、さらに女性経営者はどのような企業にいるのだろうか。効果的な対応のためには正確なエビデンスの把握が大前提となるが、上場企業だけを見ても経済全体の実態は明らかにならないし、中堅・中小企業をカバーした公的統計には経営者や役員の属性に関する情報がない。そこで、筆者が実施した「企業経営と経済政策に関するアンケート調査」(2012年)および「企業活動基本調査」の数千社のデータを用いて、どういった特性を持つ企業に女性役員や女性経営者がいるのか簡単に分析してみた。サンプルは従業員50人以上の企業であり、零細な自営業ではない。

単純に集計すると、親会社が50%以上出資している子会社は女性役員が少ない、資本金1億円以下の中小企業は大企業に比べて女性役員が多い、労働組合のある企業は女性役員が少ないといった傾向が観察される。しかし、これら企業特性は相互に関連を持つため、各特性の純粋な影響を示すものではない。そこで女性役員の有無を被説明変数、さまざまな企業特性を説明変数とするプロビット推計を行ってみた。説明変数は、企業規模、企業年齢のほか、上場、オーナー経営、外資系、子会社、労働組合、産業分類のダミーである。推計結果に基づいて各種企業特性の限界効果を示したのが表1である。その結果によれば、オーナー経営企業や若い企業は高い有意水準で女性役員がいる確率が高く、逆に、子会社、上場企業、労働組合のある企業は女性役員がいない傾向がある。企業規模や外資系かどうかは、女性役員の有無と有意な関係がない。

女性経営者(社長)かどうかを被説明変数として同様の分析を行ったところ、ほとんどの変数は統計的に有意ではないが、唯一、オーナー経営企業は女性社長である確率が高い。また、男性社長・女性社長の出身を比較すると、女性社長は創業者の親族出身が74%を占めている(表2)。

表1 女性役員がいる企業の特性
表1 女性役員がいる企業の特性
(注)プロビット推計。推計係数は限界効果。***は1%水準で有意。正の値は女性役員がいる確率が高い企業特性を意味。
表2 男性・女性社長の出身
表2 男性・女性社長の出身
(注)「企業経営と経済政策に関するアンケート調査」より計算。

以上の結果は、歴史の長い上場大企業やその子会社では女性が役員になるのが難しい傾向があること、オーナー経営企業において妻・娘といった創業家族の女性が役員に就く場合が多く、その中で親族継承によって社長に就任する女性もいること、また、若い企業ほど女性の活躍の機会が多いことを示している。

インプリケーション

以上のような海外の研究や日本の実態を前提とすると、女性の経営者・役員の増加を実質的に進めるためには、上場大企業の長期雇用者を念頭に置いた対応にとどまらず幅広い取り組みが必要である。

『日本再興戦略』は、新陳代謝の促進を重要な課題として掲げ、開業率10%台を目指すとしている。これは女性の活躍という文脈でのメニューではないが、女性の起業が増えれば直ちに女性経営者の増加に結びつくし、男性の起業であっても若い成長企業で女性が役員に登用される可能性は高い。同戦略は「女性の起業等を促進する」ことも謳っており、女性の創業意欲を高める政策は、結果的に女性経営者・役員数を増やす効果がある(注2)。

教育も重要な役割を果たす。たとえば、大学院卒の女性は学部以下の労働者に比べて結婚・育児が就労に及ぼす影響が小さく、男女間賃金格差も小さい(Morikawa, 2013)。女性が高校時代に高等数学を履修することで、従来男性が支配的だった職種や経営者に女性が就くようになり、賃金に大きなプラス効果を持つことを示す研究もある(Joensen and Nielsen, 2013)。即効薬ではないものの、就労前の段階から女性のスキルを高めることは指導的地位に就く女性を着実に増やしていく上で有効であり、近年の理系女子の増加は良い兆候である。

2013年12月27日
脚注
  1. ^ 25~44歳女性の就業率の数字は、足下の68%から+5%ポイント上昇することを意味する。2002年から2012年の間に25~44歳女性の就業率は+6%ポイント上昇しており、目標実現による成長寄与度は過去10年間と同程度となる。
  2. ^ Koellinger, et al. (2013)は、日本を含む17カ国のデータを使用した分析により、女性の事業主が少ない理由は、主として男女間の起業意欲の違いによるとしている。
参照文献
  • Ahern, Kenneth R. and Amy K. Dittmar (2012), "The Changing of the Boards: The Impact on Firm Valuation of Mandated Female Board Representation," Quarterly Journal of Economics, Vol. 127, No. 1, pp. 137-197. Blau, Francine D. and Lawrence M. Kahn (2013), "Female Labor Supply: Why Is the United States Falling Behind?" American Economic Review, Vol. 103, No. 3, pp. 251-256.
  • Joensen, Juanna Schrøter and Helena Skyt Nielsen (2013), "Math and Gender: Is Math a Route to a High-Powered Career?" IZA Discussion Paper, No. 7164.
  • Koellinger, Philipp, Maria Minniti, and Christian Schade (2013), "Gender Differences in Entrepreneurial Propensity," Oxford Bulletin of Economics and Statistics, Vol. 75, No. 2, pp. 213-234.
  • Morikawa, Masayuki (2013), "Postgraduate Education, Labor Participation, and Wages: An Empirical Analysis Using Micro Data from Japan," RIETI Discussion Paper, 13-E-065.
  • Parrotta, Pierpaolo and Nina Smith (2013), "Why So Few Women on Boards of Directors? Empirical Evidence from Danish Companies 1997-2007," IZA Discussion Paper, No. 7678.
  • Smith, Nina, Valdemar Smith, and Mette Verner (2013), "Why Are So Few Females Promoted into CEO and Vice President Positions? Danish Empirical Evidence, 1997-2007," Industrial and Labor Relations Review, Vol. 66, No. 2, pp. 380-408.

2013年12月27日掲載

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