新春特別コラム:2012年の日本経済を読む

再生可能エネルギー 元年

大橋 弘 ファカルティフェロー

戦後体制の分岐点となる2012年

2011年は国内外ともに第2次世界大戦後の社会・経済制度が大きく揺らいだ年でもあった。国外ではチュニジアでの暴動が引き金となって広がりをみせる「アラブの春」、そしてギリシャの信用不安に端を発したユーロ危機が進行中である。わが国においては観測史上最大規模を記録した東北地方太平洋沖地震によって引き起こされた東京電力福島第1原子力発電所における事故により、戦後のエネルギー供給体制が問い直されている。ほころびを見せた戦後の社会・経済体制が更なる大きな変革を求められるのか、あるいは元の体制へと修復・収束していくのか。2012年は今後21世紀の社会・経済体制を考えるうえでの1つの分岐点となるのではないか。

3・11以降、日本経済は強まる円高圧力と混迷するエネルギー政策に大きく振り回された感がある。とりわけエネルギー政策においては、原子力発電の再稼働に向けての手続きが未だに不透明ななかで、政府は12月1日より節電要請を始めた。電力需給が特に厳しい電力管内では数値目標が設定され、とりわけ関西電力は11基の原子炉のうち10基が停止をする事態を踏まえ、前年比10%という厳しい節電目標を掲げている。電力会社の中には企業向けに節電幅に応じて料金を割り引く制度を導入したところもあるが、ピークとオフピークとで電力差が比較的小さい冬季における節電は、企業にとって生産減を直接的に意味することにもなりかねず、企業活動や雇用に少なからず影響を与えるのではないかと懸念される。こうした中で、自家発電と並んで新たな電力供給源として期待されているのが再生可能エネルギーである。

「再生可能エネルギー元年」

2012年7月より、わが国では固定価格買取制度が施行されることが予定されており、再生可能エネルギー分野に対して多くの企業の注目が集まっている。固定価格買取制度は、太陽光発電について既に導入されている余剰電力買取制度を、実用可能な他の再生可能エネルギー源にまで対象範囲を拡大したうえで、それらのエネルギー源については発電量全量の買い取りを電力会社に義務付けるものである。余剰電力買取制度と同様に、買い取りに要する費用は賦課金(サーチャージ)という形で電力料金に上乗せされ、電力需要家である一般家庭や企業が負担することになる。買取期間・買取価格(以下、買取条件)については関係大臣に意見聴取をしたうえで、国会同意による中立的第三者による「調達価格等算定委員会」の意見を尊重して、経済産業大臣が告示をすることとなっている。買取条件は再生可能エネルギーの普及を考えるうえで重要な政策変数であることから、どのような買取条件が示されることになるのか、国内外の事業者が固唾をのんで見守っている状況だ。まさに、2012年は日本にとって「再生可能エネルギー 元年」と位置づけられそうだ。

2012年早々にも調達価格等算定委員会を設置したうえで、買取条件が決められることが想定される。再生可能エネルギーの経済的・効率的な普及を促すことで、電気料金の上昇を通じた国民負担増を最小限にするような買取条件を提示することが委員会には求められるだろう。以下では、買取条件に係る政策的な課題について2点指摘しておきたい。

あるべき買取価格とは

買取期間は長ければ長いほど、そして買取価格は高ければ高いほど、再生可能エネルギーの普及が促進されることは自明である。政策的に工夫されるべきは、国民負担を抑えつつ、再生可能エネルギーが効率的に普及するような買い取りのあり方を設計することにある。経済的な普及を考えるうえでは市場メカニズムを上手に使うことが賢い方法だ。具体的には、設置形態や種別、規模別に異なるエネルギー源が競争的に導入されるような買取条件を仕組むべきだろう。

学習効果や量産効果など将来にわたる動学的な影響がなければ、買取条件は異なるエネルギー源で一定であることが望ましい。そうすることで、最も効率的な再生可能エネルギー源から導入を促すことが可能になるからである。しかし現実には、発電単価がいま高くても、量産効果が働いて単価が将来急速に低下するような状況が想定されることから、その量産効果の程度に応じて買取条件を異なるエネルギー源ごとに調整することが適当だろう。どの程度の量産効果が過去働いてきたのかを検証しつつ、将来のコスト低下を織り込んだ上での、細やかな買取条件の作り込みが求められる。

買取条件を設計する上で、国家戦略室が12月19日に発表したコスト等検証委員会報告は参考になる。委員会報告では、各電源の発電コストの将来試算をその試算の背景にある前提条件も含めて詳細に議論をしている。しかしこの報告にある発電コスト試算には、再生可能エネルギー源に限っても、いくつか精査を必要とする点がありそうだ。たとえば、固定価格買取制度において中心的な役割を担うと考えられる太陽光発電についてみると、2010年から2030年までの間でのコスト低下率は、住宅用太陽光発電では47~70%、メガソーラーでは42~60%と試算されている。この試算結果は、学習効果の進捗率が80%であるとの仮定によるところが大きいようだが、そもそも過去わが国においてこの仮定が当てはまっていたのかについて検証がなされるべきだろう。筆者が過去に分析した限り1、住宅用太陽光発電については97年から2007年までの10年間にマージン(利鞘)を考慮した上での発電コストはたかだか30%の下落と推計された。もし太陽光発電に学習効果が継続的に働いているのであれば、2030年に向けてのコスト低下率はこの値以下でなければならない2。政策の方向性を見誤らないようにするためにも、予定されている国民参加による今後の検証作業においては、過去のデータを踏まえたうえでの議論がなされるように期待をしたい。

国際的な視点を忘れずに

固定価格買取法案では、衆・参両議院における付帯決議において、「再生可能エネルギー発電設備については、[中略] 品質保証がなされていること、メインテナンス契約が締結されていることその他の厳格な基準を設けること」との一項目が加えられた。消費者保護の観点からも一定の品質保証は不可欠であるものと考えられるが、過度に厳格な基準を設けることは国民負担の観点からも望ましくないばかりか、国内メーカーが海外展開をするときの足かせになることにもなりかねない。海外における太陽光発電をめぐる厳しい競争環境を鑑みると、国内市場を保護するために何らかの手を打ちたいとの一部の識者の気持ちも分からなくもないが、固定価格買取制度を起爆剤としてわが国産業活性化につなげるためには、海外市場の取り込みを視野に品質に係る基準は国際的な標準と合致させることが望ましい。再生可能エネルギーを「コモディティ」におとしめることなく、海外市場に受け入れられるような差別化をいかに図っていくのか。「再生可能エネルギー元年」早々、浮かれてばかりもいられないようだ。

2011年12月28日
脚注
  1. 「わが国における全量買い取り制度の課題―太陽光発電に注目して―」「環境経済・政策研究」Vol.4, No.1 P.60-63 2011年を参照のこと。
  2. もちろん多結晶型や薄膜型などそれぞれの技術に応じて学習効果の程度が異なるとの議論もありうる。海外との競争で価格が大幅に低下することが予想されているが、発電コストの低下を伴わないのであれば学習効果と呼ぶことはできない。。

2011年12月28日掲載

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