新春特別コラム:2011年の日本経済を読む

2011年を新たな日・アセアン関係構築の年に

福山 光博 コンサルティングフェロー

ダイナミックな変化を続けるアジア

昨年1年間の世界の政治・経済情勢を振り返ってみれば、アジアの力強さとダイナミックな変化が印象付けられる1年であった。

IMFが昨年10月に発表した世界経済見通しは、アジアが世界経済を牽引する姿を明らかにするものであった。昨年の経済成長率は、先進国平均が+2.7%にとどまったのに対して、新興アジアは+9.4%に達したが、このような勢いは本年にも引き継がれる見込みである。同見通しにおいては、中国+9.6%、インド+8.4%、ASEAN5カ国(注1)が+5.4%の成長となり、いずれも先進国平均(+2.2%)を上回って、アジアが世界の成長センターとしての地位を確保することが予想されている(注2)。

アジア各国の成長は、経済的な側面にとどまらず、グローバルな、あるいはリージョナルな政治力学にも大きな影響を及ぼしている。昨年ソウルで開催されたG20サミットには、アジアから、日本のほか、議長国・韓国に加え、中国、インド、インドネシア、ASEAN議長国であるヴェトナムも加わり、これらの国々はグローバルなフィールドでの発言権を増している。もはや、世界の重要な政治イシューは、いわゆる「先進国クラブ」のみによって決まるものではない。このような環境変化を踏まえて、我が国は、グローバルな戦略目標を実現していく上でのパートナーとしてアジアの国々を捉え直し、関係を切り結んでいく必要性に迫られている。

また、地域における政治構造という側面から東アジアに焦点を当てると、著しい経済成長を遂げ、政治的にも自信を深める中印両国と、いかなる関係を築き、政策を展開していくかが、現在、我が国に問われている。また、2005年より開催されている東アジア・サミットは、本年から米露両国が参加することになるが、このような地域の枠組みに、両国をどのように迎えていくかも重要な問題である。本年は、以上のようなさまざまな課題に直面しつつ、東アジア地域情勢に対応していかなければならない、重要な年となる。

重要性を増す東南アジア

こうした中で、東南アジア諸国との関係の維持・構築についても、我々は、その重要性を忘れてはならない。今や加盟国が10カ国を数えるに至ったASEANは、日本経済にとって欠くことのできない貿易・投資パートナーである。財務省公表の貿易統計によれば、2010年度上半期の我が国のASEANとの貿易額は9.5兆円に達し、13.4兆円の対中国貿易額には及ばないものの、8.2兆円の米国を上回る貿易相手となっている。また、経済産業省の海外事業活動基本調査(2008年度調査)によれば、ASEAN6カ国(注3)における現地法人企業数は4046社に及び、2662社の米国を上回り、4213社の中国本土に匹敵する数となるなど、日系企業にとって重要な生産・販売拠点となっている。OECDがまとめた東南アジア経済見通しによれば、東アジア6カ国は、2011年から15年にかけて、平均して+6.0%という安定した成長を続ける見込みである(注4)。

東南アジアの重要性は経済にとどまるものではない。上述したような、米露中印等の大国の動向を視野に入れながら我が国が東アジアにおける国際政治上のゲームを進めていく上で、ASEAN各国と友好的な関係を築くことの必要性は、あえて指摘するまでもないだろう。こうした点に加え、東南アジアが、我が国の生存にとって欠かせない交易路を抱え、日系企業の生産ネットワークが張り巡らされていることに鑑みれば、この地域の政治的・経済的・軍事的安定の実現は、我が国にとって重要な課題であるといえるだろう。

2011年を新たな日・ASEAN関係構築の年に

さて、このように我が国にとっての東南アジアの重要性を認識した上で、どのような視点からの関係構築が求められるであろうか。かつては、東南アジアとの関係というと、単純化すれば、アジアで唯一の先進国日本が、経済的には発展途上の東南アジア諸国に対して、援助を行うという図式であった。しかしながら、現在の日・ASEAN関係は、そのような単純な構図では捉えられなくなっており、より複眼的な視点から把握する必要がある。ここでは、我が国が、今後、東南アジア諸国と関係を構築していくに当たって必要な、3つのポイントを指摘したい。

第1に、日本とASEANを含む東アジア経済が、相互依存を増し、1つの広域経済圏として生成していることである。この地域における経済的相互依存の深まりは、筆者が編集・執筆に携わった10年前の「通商白書2001」でも扱った所であるが、昨年の「通商白書2010」がデータによって検証したように、その後、東アジア生産ネットワークは、量的に深化するのみならず、販売拠点や研究開発拠点も含めたネットワークへと、質的にも発展しつつある(注5)。このような変化を伴いながら、日系企業を含む地域の企業は、東アジアを、国境によって分断された地域としてではなく、1つの経済圏として捉えながら事業活動を展開しつつある。このような経済的関係の深まりや企業活動の実態に即した制度の在り方を、我が国は関係各国と模索していく必要があろう。

第2に、ASEANをハブとしたFTA網の完成と、自由化及びルール・メイキングの進展である。ASEANは、2015年までの「ASEAN共同体」の完成を視野に域内統合を進めるとともに、6つの周辺国(日本、中国、韓国、インド、豪州、ニュージーランド)とFTAを締結し、これら6か国を加えたASEAN+6での経済統合についても議論を行う作業部会を政府間でスタートしている。また、東南アジアの一部の国は、環太平洋連携協定(TPP)交渉にも加わり、積極的に国際的なルール・メイキングへの関与を表明している。我が国も、このような動きに取り残されることなく、ASEAN各国を、ともに共有するひとつの経済圏の一員として捉え、地域の枠組みづくりを主導していくことが望まれる。昨年のASEAN+6経済大臣会合での日本提案「イニシャル・ステップス」は、こうした動きを背景としたものであり、同提案を踏まえてASEAN+6での広域統合構想である東アジア包括的経済連携(CEPEA)を進めていくことが期待される(注6)。

そして最後に、上記とは逆説的かもしれないが、他方において、我々の前には多様な東南アジアが広がっていることについても、認識しなければならない。1人当たりの経済水準を取り上げても、ASEANには、シンガポールのように我が国とほぼ同じ水準の国から、CLM(カンボジア、ラオス、ミャンマー)のように多くの貧困層を抱える国まで、幅広く存在する。前者は、日本にとっては地域において先進的な制度を設計していく上でのパートナーとなるだろうが、後者はインフラ開発等の経済的な支援を必要としている。広域統合を進めていく上では、「イニシャル・ステップス」にも示されているように、自由化と開発を両軸としたアプローチが考慮されよう。また、この両者の間には、末廣昭の言う「中進国化」する国々が存在する(注7)。先進国としての経済水準に達しないまま、少子高齢化、社会保障制度の不備、環境問題、都市問題等、我が国が同様に経験した諸課題に直面するこのような国々に対して、我が国としては、「新成長戦略」(2010年6月閣議決定)にも記されているように、技術や経験を武器とした課題解決型のアプローチが有効だろう。このように、一方において東アジアを1つの面的世界としてとらえる一方で、多様性も考慮した、きめ細かな政策展開が求められよう。

本年のASEAN議長国は、インドネシアであり、日本を交えた東アジア首脳会合は、10月末に同国において行われる予定である。同会合に向け、東アジア政策についての議論を深めつつ、2011年が新たな日・ASEAN関係構築の年となることを期待したい。

2011年1月11日
脚注
  1. インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ヴェトナム。
  2. IMF, World Economic Outlook, October 2010.
  3. インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ヴェトナム。以下、ASEAN6カ国と称するときも、同様。
  4. OECD, Southeast Asian Economic Outlook, November 2010.
  5. 経済産業省[2010]『通商白書2010』。また、末廣昭[2010]「東アジア経済をどう捉えるか? 開発途上国論から新興中進国群論へ」(『RIM 環太平洋ビジネス情報』2010年7月号)は、1990年代後半から、それまでの米国を最終的な消費地とする「太平洋トライアングル」から、中国(+韓国、台湾)、日本、ASEAN(+インド)の3者を中心とする「東アジア・トライアングル」に貿易と投資の流れがシフトし、「アジア化するアジア」の動きが進んでいると指摘している。
  6. 同提案の詳細は、拙稿「東アジア経済統合への『最初の歩み』」を参照のこと。
  7. 「中進国」の詳細については、上記・末廣[2010]のほか、末廣昭[2009]『タイ 中進国の模索』(岩波書店)を参照せよ。

2011年1月11日掲載

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