トランプ税制改革とは何だったのか?

佐藤 主光 ファカルティフェロー

世界的に議論を巻き起こしたトランプ税制改革案はとりあえず、連邦法人税率の15%への引き下げで落ち着きそうだ。この税率カットだけでも「国際的租税競争」(企業・投資の誘致を巡る法人税率の引き下げ競争)を更に激しくするだろう。米国の財政を悪化させる懸念もある。しかし、トランプ税制案の柱は元来、法人税率の見直しだけではなかった。正確にいえばトランプ大統領本人ではなく、議会(下院)共和党の税制改革案がベースになっているが、法人税の「仕向け地主義キャッシュフロー税化」である。輸入品への課税(=損金不算入)と輸出品の非課税措置(=益金不算入)から「国境税」とも揶揄されるが、これは消費税と同じ仕組みである。

租税回避を誘発しない仕向け地主義

従来の法人税は全世界所得課税(=居住地主義課税)か国外所得免除方式(=源泉地主義課税)に拠っていた。前者は企業(本社)が立地する国で課税をする原則であり、後者の場合、課税をするのは企業が経済活動を行った国となる。米国の法人税は一貫して居住地主義に従ってきた。他方、我が国は海外子会社の配当を非課税にするなど源泉地主義課税に近い。

しかし、いずれの課税地原則も多国籍企業による租税回避を招くなどグローバル経済の進展とともにその徹底が難しくなっている。居住地主義であっても、海外子会社を設立すれば、親会社に配当が支払われない限り、海外に利益が留保される。企業からみれば海外子会社の利益を「連結」したのが自身の利益となる。他方、課税のタイミングは子会社の利益の「発生」ではなく、親会社への配当が「実現」したときだ。よって、企業は利益を留保することで課税を先延ばしできる。源泉地主義課税の場合、企業は海外子会社との取引(移転)価格を操作する、たとえば海外子会社からの仕入れ価格を高くし、子会社からの売り上げ(ロイヤリティなど)を低く抑えることで課税所得を圧縮できる。法人税率の高い自国から低い海外に利益を移転できるわけだ。こうしたBEPS(「税源浸食と利益移転」)と呼ばれる多国籍企業の租税回避に対しては各国に協調した対応が求められてきた。仕向け地主義課税であれば企業の租税回避を誘発しない。海外子会社からの仕入れは輸入に相当するため費用として課税ベースから控除されない。このため、幾ら高く購入しても課税ベースの圧縮にはつながらない。一方、輸出はそもそも益金として算入されないため、値段を下げても課税額は変わらない。実際、同じ仕向け地主義をとる消費税の増税でこうした利益移転が問題になることはない。

法人税の消費税化

「キャッシュフロー」とは事業者(企業)の売り上げから原材料・設備等仕入および人件費を差し引いた値を指す。従前の法人税と違って設備投資は(減価償却として後年、経費として計上されるのではなく)即時に控除される一方、借り入れに係る利払い費の控除が認められないという特徴がある。その意味で「所得」とは概念が違う。実際のところ、こうした「仕向け地主義キャッシュフロー税」は消費税や欧州の付加価値税と同様だ。消費税=間接税、仕向け地主義キャッシュフロー税=直接税という「制度的」な相違はあるが、その経済効果は等しくなる。このことは国民経済計算(三面等価)の式から伺える(注1)。

消費=賃金+(営業余剰-投資)-(輸出-輸入)=賃金+((輸出を除く)売上-(輸入を除く・投資を含む)仕入)=賃金+仕向け地主義キャッシュフロー

消費税=間接税は上式の左辺を課税ベースとする一方、国境税=直接税は右辺の仕向け地主義キャッシュフローを課税ベースとする。左辺に課税しても、右辺に課税しても同じことになる。これを「税等価」という。一般に

消費税=社会保険料等賃金税+仕向け地主義キャッシュフロー

という関係が成立する。等号式は「税等価」を意味する。この税等価式が意味するところは、仕向け地主義キャッシュフロー課税とは従前の法人税に代えた①消費税の増税と②社会保険料を含む賃金課税の減税に等しい。何故なら

▲仕向け地主義キャッシュフロー=▲消費税-▲社会保険料等賃金税

トランプ税制改革(下院共和党案)は単なる法人税の減税に留まらない意味を持っていた。法人税を「廃止」して消費税を創設、合わせて社会保険料も減税したことに相当するからだ。英国やドイツなどの税制改革でも法人税率を引き下げ、社会保険料(事業主負担)を抑える一方、付加価値税=消費税の増税が行われてきた。トランプ税制に先駆けて欧州では同じ方向で税制改革がなされてきたのである。一方、我が国では(国・地方を合わせた)法人税率が30%を切ったとはいえ、諸外国に比べて法人税の税率が高止まっている。加えて高齢化に伴い社会保険料は増加傾向にある一方、消費税増税は2019年10月まで先送りされている。今回、米国で国境税=仕向け地主義キャッシュフロー税の創設が見送られたことで安心するのは誤りだ。既に法人税・社会保険料=源泉地主義課税から消費税=仕向け地主義課税への移行によるタックス・ミックスの見直しは世界的な潮流なのである。日本だけ今のままで良いのだろうか?

脚注
  1. ^ 三面等価より、
    国内総生産=雇用者報酬(賃金)+営業余剰=消費+投資+輸出-輸入

2017年5月26日掲載

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