地方創生と日本の未来

近藤 恵介
研究員

昨年に地方創生と少子化に関するレポートを執筆してから約1年が経ち、まち・ひと・しごと創生本部も設置され、また各地方自治体の地方創生への取り組みも本格化しつつある(注1)。本コラムでは、RIETIでのさまざまなセミナーや国内外での研究活動を通じて私が個人的に感じたことを基に、地方創生が日本の未来をどのように切り拓いていくのかについて考えてみたい。

地方創生が日本の未来を左右する

これは過言ではないと思っている。地方創生に関するさまざまな政策が本格化しつつあるが、今後何を実施するのか次第で今後数十年先の日本に非常に大きな影響を与えうると考えている。それだけ大きな影響力を持つからこそ、多くの国民が議論に参加し、その声が政策形成の場において参考にされなければならない。このような視点から、私一個人としての意見を以下で述べたいと思う。

Think Globally、Act Globally

地方創生の議論において、いかに若者を地方に残すのかが議論されている。そのために若者を引き付ける魅力的な地域づくりをすること自体は私も賛成である。一方で、いかに若者が出ていかないように地方に押しとどめるのかという議論にまで達することもあるが、地方創生が地方の若者の学ぶ機会を奪ってしまうのではないかと危惧している。ただ地方から若者がいなくなるという理由のみによって、彼らが外の世界で学ぶ機会を阻害するようなことがあってはならないと思う。

将来を担う若者こそ世界規模で考え、世界規模で行動できるようになってほしいと思う。その過程で母国である日本や自身の故郷をどのように見つめ直すのか、未知の土地でさまざまな経験を積むことで初めて自身の故郷の素晴らしさを感じられるのではないだろうか。若い世代を地方に押しとどめることのみにとらわれず、地方から世界へ羽ばたいていけるように育てていくことが日本の未来を切り拓くのではないかと感じている。

都市も地方も世界で活躍へ

日本人がノーベル賞を受賞するという快挙を成し遂げていることは、非常に勇気づけられる。さらに注目されている点は、地方大学出身者からもノーベル賞受賞者が輩出されているということである。都市も地方も世界で活躍できる潜在力を秘めているという点を再認識しなければならない。

最近RIETIファカルティーフェローの浜口教授と執筆したディスカッションペーパー(Hamaguchi and Kondo,2015; RIETI DP 15-E-108)では、そのような問題意識をもとに世界で活躍できる地域経済活性化政策に関する示唆を提示している。知の時代と言われるように、新たな発明やビジネスアイデアやデザインという知識創造という側面が非常に大きな役割を担いつつある。そこで、特許技術に係る発明の質に焦点を当て、どのような地域で質の高い発明が行われているのかを実証分析している。分析の結果、大卒の人口移動が活発に起こっている地域ほど質の高い発明が行われていることがわかっている。

我々はこれを知識の新陳代謝活性化と呼び、いかに新鮮な知識を外部から吸収し既存知識と転換していくのかが今後の地域政策にとって重要なのではないかと考えている(注2)。都市から地方へ、地方から都市へ、双方向に人の移動を負担なくスムーズに引き起こすシステムを築いていくことが、人口減少社会に直面する日本においてますます必要となってくるのではないだろうか。

エビデンスの重要性をより認識する

RIETIではエビデンスに基づく政策(evidence based policy)に寄与することを1つの理念とし、国内外の研究者による研究成果を公表している。経験や勘による主観的な判断材料に加えて、実験やデータ分析などから得られる客観的な判断材料をより重視しており、このような趨勢は世界的にも高まっている。一方で、地方に焦点を当てた場合、そもそも地方に直結した客観的なデータ分析を行える環境が整っていないという問題もあるだろう。結局、どのような政策効果があるのか非常に不確実なままの政策立案にならざるを得ない。

このような問題を今後どのように解決していけばよいのだろうか。私からは「学術の社会的責任」(Academic Social Responsibility, ASR)という概念を今後普及させていくべきであると考えている。今日では、「企業の社会的責任」(Corporate Social Responsibility,CSR)という言葉はすでに定着してきている。営利目的の一企業も、社会貢献活動を積極的に行っている。そして結果的には、CSRを通じて企業の業績が上昇することも期待されている。まさしく、このような正の連関効果が作ること重要な視点であると考えている。

社会科学としての経済学の最終目標は、社会の問題を解決することでより豊かで幸せな社会経済基盤を作っていくことだと私は考えている。私たちの社会には、解決されなければならない多くの課題が残されている。「学術の社会的責任」(ASR)という概念を通じて、多くの研究者が実社会と密接な関係を持ち、エビデンス形成に寄与していくことを願っている。

All Japanで日本の未来を切り拓く

グローバル化が進み、世界的な競争力が問われる時代になってきている。日本国内だけで物事を議論できる時代ではなくなってきているのかもしれない。地方創生も日本における地域活性化という視点を越えて、世界における日本の未来を切り拓くという視点から再度議論していく必要があるのではないだろうか。これは個々の地方自治体を越える部分もあり、地方創生における国としての役割も必要とされる。

少子高齢化や人口減少に直面している日本の未来を切り拓くにはAll Japanで挑まなければ解決できないであろう。既存の議論では、現行制度を維持したもとで日本の未来が描かれることも少なくない。問題は、現行制度の維持可能性である。現行制度の問題点を乗り越え、新たな制度のもとで日本の未来を描くことが地方創生を通して問われているように感じる。

初代RIETI所長である故青木先生のご研究が指摘するように、まさしく均衡としての制度であるのなら、歴史的経路依存性によって現行制度が維持されているとも考えられる(注3)。そしてこのような均衡としての制度を変更するのは容易ではない。仮により望ましい状態が別に存在するにも関わらず、それを達成できない場合、All Japanでビッグプッシュを達成し、新たな制度のもとで成長モデルを描くことが必要な時期に来ているのではないだろうか。現行制度の延長線上に日本の未来を描き続けるのではなく、世界の国々が日本モデルとして参考にしてもらえるような新たな制度を築けるようAll Japanとなって議論していくことが、まさに地方創生に問われていることだと感じている。

2015年10月29日掲載
脚注
  1. ^ スペシャルレポート「集積の経済による成長戦略と出生率回復は相反するのか」を参照。
  2. ^ 研究の概要はノンテクニカルサマリーを参照。
  3. ^ 2015年10月6日に行われた青木昌彦先生追悼シンポジウム「移りゆく30年:比較制度分析からみた日本の針路」の配布資料を参照。
文献

2015年10月29日掲載