エネルギーミックスと今後のシステム改革

大橋 弘
ファカルティフェロー

総合エネルギー調査会基本政策部会小委員会のもとで、長期エネルギー需給見通しの作成に向けて議論が続いている。わが国のエネルギー政策の目標は、従来からエネルギーの安定供給を第一とし、経済効率性の向上による低コストでのエネルギー供給を実現し、同時に環境への適合を図ることであった。東日本大震災後には、前提として安全性が付け加わって3E+Sとされる。これら4つの目標はどれも重要であり、エネルギー政策にも国際的な視点を含めたさまざまな観点からの統合的・整合的な検討が必要とされている。

なかでも重要なのは雇用・経済からの視点である。昨年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画にもあるように、エネルギーコストの上昇と温室効果ガスの排出量の増大が原因となって、わが国の経済・産業活動や地球温暖化対策への取り組みに深刻な影響を与えており、早急の対策を要する事態になっている。震災後のエネルギー政策の大転換のなかで、エネルギー需給の見通しが立たないままにさまざまな緊急的対策が同時並行して進められたことで、エネルギー政策に明確な優先順位が失われ、エネルギーを取り巻く事業環境の不確実性が大きく増した。電力システム改革が進展するなかでは、最終的に達成される電源別発電構成は市場メカニズムの結果であるとしても、電源間の公平な事業環境を政策的に整備するためには長期に向けたエネルギーの需給見通しが示される必要がある。そして見通しで示されるエネルギーミックスの将来像は、電力システム改革の制度設計と密接な関係を有していることは言うまでもない。

電源別発電構成

東京大学大橋弘研究室では、9電力エリアを繋ぐ電力系統モデルを作成し、発電および連系線が経済運用されているとの仮定のもとで、いくつかのシナリオに基づいて経済的に最適な電源別発電構成をシミュレーションによって導出した。一般・卸電気事業者が開示する供給計画には10年先の電源整備計画が記されている。齋藤・大橋(2015)(注1)では、直近(2013年度末)の供給計画および電力系統利用協議会「供給信頼度評価報告書」(2014)に記載のある地域間連系設備の運用容量算定結果を用いて2023年断面での8つのシナリオについて検討を行った。そのシナリオは、図表1のように需要想定、再生可能エネルギーの稼働設備、そして原子力稼働状況の3つのパラメータで構成されている。

図表1:シナリオ(2023年断面)
シナリオ2023年時における仮定
稼働再エネ設備原発稼働電力需要
114年末での認定容量全停止2014年と同等
214年末での導入量と認定容量との中間値全停止2014年と同等
314年末での認定容量運転開始年から40年未満のみ稼働2014年と同等
414年末での導入量と認定容量との中間値運転開始年から40年未満のみ稼働2014年と同等
514年末での認定容量全停止エリア別予測人口に応じて減少
614年末での導入量と認定容量との中間値全停止エリア別予測人口に応じて減少
714年末での認定容量運転開始年から40年未満のみ稼働エリア別予測人口に応じて減少
814年末での導入量と認定容量との中間値運転開始年から40年未満のみ稼働エリア別予測人口に応じて減少
出典:齋藤・大橋(2015)

それぞれのシナリオに対して、2023年における電源別発電構成をシミュレーションしたものが図表2である。発熱量や(定格出力時および部分負荷時における)発電効率、発電所のメンテナンスや最低停止時間、運転予備力などを公表資料に基づいて入力データとして与えている。化石燃料の予測価格は、IEAのWorld Energy Outlook (2014)の2020年と30年予測値から内挿した(注2)。

図表2:電源別発電構成(2023年断面)と発電費用・二酸化炭素排出量
図表2:電源別発電構成(2023年断面)と発電費用・二酸化炭素排出量
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出典:齋藤・大橋(2015)

この図表から分かることは、再生可能エネルギー(以下、再エネ)および原子力からの発電量が増えるにつれて、石油・LNG火力の発電量が大きく影響を受ける点である。石油・LNGのシェアは最小で23.9%(シナリオ7)、最大で49.8%(シナリオ2)となる。発電費用や二酸化炭素排出量の違いも顕著である。たとえば40年廃炉での原子力再稼働を仮定した場合、再稼働がない場合と比べると年間の発電費用(燃料費の他、年間固定費と再エネ賦課金を含む)は2兆円弱の減少、そして発電用燃料に係る二酸化炭素排出量(注3)の減少量は8千万トン強になる。この後者の数字は、わが国の二酸化炭素排出総量(2014年での13億1000万トン)の約6%に相当する。なおここでの費用には原子力における政策経費や追加的安全対策費用などは含まれておらず、再エネの量産効果などを通じた技術進歩の効果も捉えていないことに注意が必要である。また二酸化炭素は発電に係る発生量であり、建設・施工・廃棄などに係る発生量は勘案していない(注4)。

再エネの影響

昨年秋に九州電力を初めとして太陽光発電の接続保留が問題になった。これは太陽光発電の大量導入が引き金となったが、2023年では電力需給はさらに深刻化することが予想される。図表3は、晴天時の軽負荷日における九州エリアの発電構成を示したものである。注目すべき点は3つある。(1)日中は関門連系線を使って中国地方側へ最大限送電している。(2)石油・LNG火力は日中停止しており、石炭火力も必要最小限の基数が最低出力で運転している。(3)上の(1)(2)にもかかわらず、再エネの余剰をエリアで吸収することができず、太陽光発電の出力抑制が行われる。出力抑制の対象設備は、最大で九州エリアにおける非住宅用太陽光発電設備に対して4割近くに上る。

図表3:九州エリアにおける需給状況(23年5月5日を例にシナリオ7を用いた)
図表3:九州エリアにおける需給状況(23年5月5日を例にシナリオ7を用いた)
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出典:齋藤・大橋(2015)

電力システム改革への示唆

これまでの電気事業制度は、戦後発足した9電力体制を軸として、全国をエリアごとに需要と供給のバランスをとることを前提としてきた。一方で、再エネ大量導入や小売全面自由化など、電気事業の今後の環境変化を踏まえると、電力市場の活用や需給運用の広域化は不可避と考えられる。電源広域運用によって、全国大のエネルギーミックスを最適化する視点が、国民負担を最小化するために必要である。

太陽光発電や風力といった変動性をもつ再エネの普及拡大が、電力システムに対して新たな問題を提起していることが図表3から明らかにされた。ここでは2つの点を指摘したい。第1の問題は、中長期的な供給力確保の問題である。システム改革第2段階(2016年4月)以降の優先給電ルールでは、火力発電の出力抑制が自然変動性電源の出力抑制に先んじることになる。これは変動性電源の導入拡大策としては有効だが、火力発電の採算性を大幅に悪化させる。再エネの導入量に応じて、一定量の追従性の高い火力発電を最低出力で待機させておく(mothballingという)必要があり、また軽負荷期などには昼間に揚水のポンプアップを行うことも想定される(齋藤・大橋(2015)を参照)。こうした火力発電・揚水の運用は、自然変動性電源から生じる余剰電力に対応するために不可欠であるものの、発電電力量(kWh)から収入を得る市場メカニズムでは採算性があわず、供給力が不足する事態が想定される。発電しなくても待機するだけで収入が入る仕組み(たとえば容量メカニズム)を導入するなど、追加的な制度の手当を必要とする。

第2の問題は、連系線の利用ルールについてである。図表3では、連系線の容量を最大限経済的に運用できるものと仮定した。しかし現行では、そのような運用になっておらず、既存事業者によって容量が押さえられている(先着優先ルール)ために、連系線の利用は制約を受けることから、太陽光の出力抑制量は図表3で示した以上に拡大するものと見込まれる。現行の先着優先ルールから経済性を優先とするルールに移行するための制度的な仕組みを考えなければならないだろう。そのための1つの方法は、現行の既得権を「権利」として認めた上で、その「権利」を取引できる仕組みを考えることである。

来月より電力広域的運営推進機関が発足し、これまで以上に調整力の確保やエリアを跨ぐ連系線の活用に対して目が向けられることになる。定性的な議論を超えて、定量的・科学的な政策論議が深められることを切に望みたい。

2015年3月18日掲載
脚注
  1. ^ 齋藤経史・大橋弘(2015)「電源別発電構成と経済評価」CIRJE-J-269
  2. ^ シミュレーションには、GE社の電力系統シミュレーションソフトMAPS(Multi-Area Production Simulation)を用いている。
  3. ^ 二酸化炭素排出量の算定にあたっては、以下を参照した。今村栄一・長野浩司 (2010)「日本の発電技術のライフサイクル CO2 排出量評価-2009 年に得られたデータを用いた再推計」電力中央研究所報告 Y 研究報告
  4. ^ 具体的には齋藤・大橋(2015)を参照のこと。

2015年3月18日掲載

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