人口減少時代「まちづくりのイノベーション」

中村 良平
ファカルティフェロー

衰退する地方

「日本創生会議」による各自治体の今後30年先の人口予測結果が、5月9日の全国紙のみならず各地方紙によっても大きく取り上げられました。「20~30代女性の数が半分の自治体で半減する」、「523の自治体の人口が1万人を切る」、「消滅する自治体も出て来る」などという予測が地方紙の注目を集めたのでしょう。これらはいくつかの前提条件の下での推計ですが、多くの市町村では驚きをもって受け止められていたようです。

この数年の人口トレンドを見ると、おおよその予測ができます。人口のトレンドを延ばすと、やがては人がいなくなるような自治体もでてきます。それは判っているのだけれど、何とかしたい。だが、有効な打つ手が見当たらないというのが、多くの(地方の)自治体の本音ではないでしょうか。

人口の変化は、出生と死亡からの自然増減と、転入と転出からの社会増減から構成されます。高齢者の割合が高いと死亡者数は増えるでしょうし、20~30代の女性の数が減ると出生者数も増えないでしょう。また、人々の出入りには、人を押し出す(プッシュ)要因と引っ張る(プル)理由があります。日本全体で人口自体が減少することは避けられない現実となっていますが、自治体としては、なんとか社会増減をイーブンに持っていき、若者定住で出生率のアップといきたいところです。

頑張る地域

もちろん頑張っている中山間地域の自治体も少なからずあります。その中で、いま注目を浴びているのは、徳島県の神山町ではないでしょうか。

神山町の地域振興の取り組みの始まりは、「企業誘致」ではなく「ひと」の誘致からです。国内外から芸術家を誘致することで、「ひとの循環」を形成することでした。また、徳島県の施策として広域的に整備されたIT環境を背景に、企業のサテライト・オフィスを誘致する取り組みもありますが、これも人材誘致に他なりません。実際、首都圏からやってきたデザイン会社の社長さんが地元加工食品のラベル制作に協力して、新たな価値を生み出しています。これこそ付加価値の創出であり、まちづくりのイノベーションといえるでしょう。

結果、神山町は「まち」としての内外とのつきあい方が変わりました。図のように転入者も増えています。ただ人口となると減少傾向が続いています。幾ばくかの転入超過があっても、高齢化率の高さのために自然減がそれを大きく上回ってしまっているのです。これは、地方のみならず大きな都市部でも近い将来には同様のことが現れるでしょう。

図:神山町の人口増減
図:神山町の人口増減
注)外国人は含まない。
出典)「住民基本台帳による人口、人口動態及び世帯数」(総務省)から作成

まちの持続性

まちの生き残りをかけるならば、せめて転出を減らし、また、できれば転入を増やす作戦(施策)を立てることが必要になってきます。もう1つは、高齢者が付加価値を生み出せる環境作りです。確かに工場誘致は一定の雇用を増やすことができます。しかし、その工場はどのような労働力を必要としているのでしょうか?

まちに住む人がいなくなれば、当然自治体は消滅します。住むということは生活しているわけで、それには収入が必要です。高齢者が多くなると、まちの経済(特に消費経済)は自然と年金依存になっています。しかし、自らが所得を生み出すようでないと、まちの経済は持続可能にはなりません。そのためには、まちに「しごと」が必要です。しかも、外からお金を稼いでくるような「しごと」の存在が不可欠です。そうすれば、若い世代の定住も見込め、自然減に少しでも歯止めがかかるかも知れません。

比較優位の解釈

自由貿易を推奨する理論に、リカードの比較生産費説に基づくものがあります。それは、自地域の中で比較優位なものを移出し、劣位なものを移入することが全体としてより効率的となることを意味します。ここでの前提条件は、地域によって生産技術が異なるということと、資本や労働といった生産要素は地域間を移動しないということです。後者のほうは、あまり今日的な仮定とは言えません。今日、資本は地域間を大いに移動します。工場移転を考えれば、それがわかります。また、人々も地域間を移動します。より収益率の高い、またより高い満足を期待できる地域への移動です。

規模に関して収穫一定の世界では、それは地域間格差の縮小を意味します。しかし、集まることに因る集積の効果、規模の効果がある場合はそうはなりません。大きなところに人や企業が吸い寄せられていき、格差は広がるばかりです。そして、大都市圏で上げられた収入が地方へ再分配されているのです。

それでは、地域間を移動しない生産要素には何があるでしょうか。たとえば、それは自然資源、あるいは環境資源が思い浮かびます。森林や農地は動かすことができません。中山間地にある市町村にとっては比較優位なものといえるでしょう。地場産業のまちも、技術・職人という動かし難い比較優位なものがあることで、高付加価値化を目指すことが可能です。企業城下町といわれる工業都市はどうでしょうか。外国との競争で比較優位の強みがなくなってきている可能性があります。競争環境の中で、あらためて比較優位なものを探し出す必要があります。それは移出できる産業を創り出すことにつながります。

イノベーションをおこす

まちに「しごと」を創り、それが域外から所得を稼いでくる産業となるには、産業間の連関構造を強めることがポイントになります。その典型は、農商工連携による六次産業化です。これは、一次(農林水産)、二次(特に製造業)、三次(商業、運輸業、金融業など)が取引の意味で連関していることを意味します。もっともポピュラーなのは、地元農産品でもって食料加工品を製造し域外に向けて販売することです。これによって外から所得を得ることになります。

しかし、産地間の競争相手は国内外にいます。これを持続可能にするにはどうすれば良いでしょうか。そこには、六次産業化を進化させてイノベーションを伴う連関構造を形成していくことが不可欠となってきます。ここでのイノベーションとは、新しい技術、特許を生み出すというわけではありません。新しい「まちづくりのアイディア」を出すという創意工夫のことです。そのためには住民参加のワークショップも必要でしょう。

そしてイノべーティブなアイディアを実行し、地域内の連関構造を変えることが必要です。これまで、つきあい(取引)のなかったところとつきあうことです。それは効率的な企業活動からすれば余計なことかも知れません。でもそういった姿を、経済モデルを使ったシミュレーションで地域をデザインしてみてはどうでしょうか。きっと、新しいまちづくりの発見が生まれるはずです。

本稿は、本年3月末に筆者が出版した『まちづくり構造改革:地域経済構造をデザインする』(日本加除出版)の内容の一部を踏襲しています。「まちづくり」のより包括的な議論は本書を参照いただければ幸いです。

2014年6月3日掲載

2014年6月3日掲載

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