ピーク電力需要を抑制するための政策とその効果検証

大橋 弘
プログラムディレクター・ファカルティフェロー

震災後、3度目の夏が訪れようとしている。振り返れば、最近は節電を意識せざるを得ない夏が続いていた。震災後2011年には、東北・東京・関西電力管内について数値目標付の節電要請が行われ、特に東北・東京電力管内の大口需要家を対象に、電力事業法27条に基づく電力使用制限令が発令された。その翌2012年には大飯原発3、4号機の再稼働を受けて中西日本地域全体の節電目標が緩和されたとはいえ、関西電力管内では10%の節電目標値が設定された。

原発再稼働の先行きが依然不透明で、再生可能エネルギーをピーク時間帯における確実な供給力として見込むことが難しい中で、今夏における需給ひっ迫の可能性について注目が集まっている。政府では、数値目標は付けないものの今夏についても節電要請は行うようだ。沖縄を除く電力9社管内で、今夏の供給余力(供給予備率)は万全とは言えず、火力発電所の計画外停止や景気回復に伴う産業用・業務用の稼働率が予想以上に高まれば、需給ひっ迫が起こりかねないということだろう。電力供給力の更なる積み上げが容易でない状況においては、需要側におけるピーク抑制への取り組みが今夏も引き続き重要な課題になる。

需給調整契約の効果検証

2012年夏においては節電目標を上回る需要減が達成されたが、この理由として家庭を含めた全需要家の節電意識が高まったことも然ることながら、電力会社がピークシフト対策として需給調整契約(注1)を拡充し、その普及を図るための活動を行った点も大きいと言われている。特に東京・関西電力管内では計画調整契約は実績でそれぞれ167万・155万kWとなり、産業用・業務用を中心とした大口・小口電力需要抑制に少なからぬ貢献をしたことが察せられる。

ちなみに平成24年11月に政府がまとめた需給検証委員会報告では、関西電力における需給面での対策の費用対効果分析がなされており、削減効果は計画調整契約では約40円/kWh、デマンドカットプランでは約17円/kWhとされている。しかしこの削減効果とは、これらの需要側に対する取り組みがなされなかった場合と比較しての電力料金の下落幅を計算しているにすぎないようだ。本来は需要側の対策にて求められるのはピーク抑制であり、これらの契約がどれだけピーク抑制に寄与したのかは未だに明らかではない。

東京大学経済学部の大橋研究室では、関東・近畿地域に工場を所有する製造業企業約1万5000社に対して調査を行い、先ごろその速報結果をとりまとめた(注2)。パネル回帰分析に基づいて分析を行ったところ、2012年夏の「需給調整契約」(注3)の効果について以下の3つの点が明らかになった。(1)需給調整契約によって需要家が支払う電力料金は平均で12%程度下落した。(2)最大需要(ピーク)電力以上に使用電力量を減らす効果の方が大きく、負荷平準化への貢献は限定的であった。(3)需要家の規模が大きくなるほど需給調整契約から得られる料金下落幅が大きいものの、最大需要電力の削減率には大きな変化は見られない。なおパネル回帰分析では、全国的な節電意識の高まりによる電力需要の影響を取り除いた上での、需給調整契約自体が及ぼす電力需要への効果を推定している。

設備効率を高めるための施策を

大橋研究室が得た速報結果は、昨秋の需給検証委員会報告書での「費用対効果分析」の結果とある意味で整合的である。つまり需給調整契約は使用電力量を低減するための誘因として機能している側面があり、それが報告書におけるkWh当たり大きな削減効果の数字につながっている。もちろん電力料金の低下は需要家にとっては喜ばしいことだが、使用電力量(kWh)の削減は本来主たる目的とはしていないはずである。需給調整契約が目指すべき方向性は、最大需要電力(kW)を抑制することであり、それによって現有の電源設備における稼働率を高め、併せて長期的な電源設備への投資を抑えることが可能になる。

あらかじめ定められた期間における特定の時間帯の中で割引を行う現行の需給調整契約は、需要想定に織り込むうえでの確実性が認められる反面、需給ひっ迫時対応としてはやはり無駄が生じざるを得ない。ピーク時の対応として望ましいのは、事前通告によって電力使用量を抑制する随時調整契約やアグリゲーターを通じて自発的な抑制を促すデマンド・リスポンスの活用のように思われるが、確実な実施に向けての検証課題が未だ残されているようだ。

電力需給を検証する上では、現行の施策がその目的に照らして効果的・効率的に設計・利用されているのかを代替的な施策案と比較して見ていく視点が大切である。つまり需要抑制の取り組みを、新たに発電設備を増強する選択肢と比較考量しながら、費用対効果に見合った電力需給政策を定量的な分析に基づいて論理的に設計していく必要がある。そうした眼を持たず、負担が需要家・事業者の片方に皺寄せされることが続けば、中長期的な電力事業の健全な運営は覚束ないどころか、日本経済の行く末も危うくなってしまう。

今回、政府が4月の時点で今夏の電力需給の見通しを示したのは大きな進展であった。今後に向けて必要なのは、電力需要に対する更なる理解であり、具体的には電力需要の変化のうち、電力価格による影響と節電の定着による影響とを峻別して議論することであろう。

2013年4月23日
脚注
  1. ^ 需給調整契約には大まかに以下の3つの契約がある。(1)需給ひっ迫時に電力会社からの事前通告等によって電力使用量を抑制する契約(随時調整契約)。(2)ピーク電力の削減のために電力会社があらかじめ定めた期間の中で、使用電力の上限を設定する具体的な日時を定める契約(計画調整契約)。加えて、小口需要家向けに(3)最大需要電力の削減に応じて電力料金を割り引く契約(たとえば東京電力管内ではデマンドダイエットプラン、関西電力管内ではデマンドカットプランと呼ばれている)。
  2. ^ 速報結果については、東京大学大学院経済学研究科付属日本経済国際共同研究センターからディスカッションペーパー(CIRJE-J-246)として公表されている。http://www.cirje.e.u-tokyo.ac.jp/research/dp/2013/2013cj246ab.html
  3. ^ 本調査で用いる「需給調整契約」という用語は注1の(2)(3)を指している。
文献

2013年4月23日掲載

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