経済センサス-活動調査の開始と今後の活用方策について

野口 聡
コンサルティングフェロー

経済産業省と総務省が共同で実施する経済センサス-活動調査が本年2月1日にスタートした。経済センサスは、統計関係者にとっては長年の目標であった。平成15年頃に我が国の統計が縦割りになっているためサービス業の把握が十分でないこと等が強く指摘される中で、包括的な産業統計の必要性の観点から経済センサスの創設の必要性が指摘され始めた。その後、平成19年に60年ぶりの統計法改正が行われ、平成21年の経済センサス-基礎調査を経て、今回の経済センサス-活動調査がようやく実現した。経済センサス-活動および基礎調査の特長はさまざまであるが、ここでは、「網羅性」と「連結のプラットホーム」の2点について論じたいと思う。

網羅性

経済センサスは2つの調査から構成される。1つは、全数調査であるセンサスを実施する上で基本的な情報である「事業所・企業」の捕捉のために平成21年に実施した経済センサス-基礎調査であり、もう1つは、今回実施する経済センサス-活動調査である。

経済センサス-活動調査とは、一言で言えば、経済版の国勢調査である。基礎調査で得られた情報をベースとして、我が国に存在するほぼ全ての事業所・企業に対して調査票を配布して、売上高、従業者数、設備投資額など、事業活動を表す基本的な情報を同様の形式で、同一時点で網羅的に把握する我が国初めての調査である。具体的な数字で見ると、約620万の事業所、約180万の法人企業および約240万の自営業者を対象とする非常に規模の大きい調査である。

経済センサス-活動調査で最も有意義なことは、「我が国産業の活動を同一時点で網羅的に把握する」ことである。「群盲、象をなでる」という諺がある。部分だけの情報では、全体が把握できず、間違った認識をしてしまう、という示唆である。援用するにはやや強すぎる表現であるが、異なる時点で別々の形式で個別の産業を調査しても、我が国全体の産業の構造・動向はきちんと把握できないことは、以前から指摘されてきたことである。我が国の経済の全体像を示す国民経済計算(SNA)はさまざまな推計の産物であるが、今回の経済センサス-活動調査の結果を活用することによって、より真実に近い我が国経済の現状を把握できるようになると期待されている。特に、我が国経済で大宗を占める産業部門でありながら、これまで業所管の統計によって断片的にしか捉えられなかったサービス産業について、その「全体像」が定量的に把握できることとなる。経済産業政策は、とかく製造業に焦点が当たりがちであったが、企業のグローバル化が加速する状況の中で国内の経済成長や雇用維持等の観点から、内需型産業であるサービス産業政策の推進が今後の経済産業政策の焦点の1つになると考えられる。そのサービス産業政策の遂行に当たっての基礎資料となるのが、経済センサス-活動調査である。

連結のプラットホーム(ビジネスレジスターとしての機能)

経済センサスのもう1つの特長は、ビジネスレジスターとしての活用方法である。

先に述べたとおり、政府内には、所管業種の統計が多数存在し、さらには、構造統計、動態統計、企業統計など複数の種類の統計がある。たとえば、ある自動車会社の傘下の事業所の年間出荷額(工業統計)、月々の生産額(生産動態統計)、企業としての売上高、設備投資額、研究開発費など、各種統計で、当該企業や事業所毎に色々な切り口で情報が存在しているが、その情報を互いに組み合わせて、総合的に分析することはこれまで不可能であった。

この経済センサスの実施によって、調査対象の企業および事業所には全て「共通コード」が割り振られて、管理される。そして企業のコードと当該企業が保有する事業所のコードがデータベース上でリンケージされてグループとして管理されるとともに、経済センサス後に実施される統計調査では、センサス実施段階で割り振られた企業コードや事業所コードが繰り返し使用されることによって、全ての政府統計の情報が時系列でデータ連携することが可能になる。それを可能にするシステムが平成25年1月からスタートし順次機能を拡大する予定のビジネスレジスターである。

統計の分析のためには、一定の企業集団・事業所集団を固定して、その時系列のデータ変化を分析するパネルデータ分析などの手法があるが、このビジネスレジスターでは、当該分析もこれまでと比較して容易になる予定である。

さらに、複数の統計を結びつけて、新たな情報を創出することも可能となる。たとえば、企業活動基本調査で抽出した高いパフォーマンス(総資本利益率や付加価値率など)の企業群の活動として、海外展開の状況や知的財産の保有状況等を比較分析することなどがこれまでより容易に実施できるようになる。加えて、企業が付加価値を生む源泉となる生産要素としての「労働投入」についても、その質が測定しにくいという指摘がある中で、賃金構造基本統計調査などと適切なリンケージを図ることで、産業人材政策等の議論に資する情報を創出することができる。

また、ビジネスレジスターを通じて事業所等の緯度経度情報(地理空間情報)が正確に登録され活用されるようになると、これまでの商業統計では作成にかなり負担がかかっていた地域の商店街の把握が容易になって、当該地域商店街の盛衰などの分析が効率化する。今回の経済センサス-活動調査においては、当該商店街に存在する飲食店他サービス事業所の把握も行うことから、これを活用すれば小売業だけでなく、サービス業までを含めた商店街の分析を充実させることも可能となる。

結び

繰り返しになるが、経済センサスの連結プラットホームを活用すれば、企業ベースの情報に事業所ベースの情報を連携させることが可能となる。経済産業省において15年間ほど継続的に実施してきた経済産業省企業活動基本調査は未だその潜在的な活用可能性を十分に発揮しておらず、さらなる活用が求められている。事業所統計やその他の企業統計との連携活用を通じて、これまでの「産業・事業所」を対象とした政策から「複数の事業活動を行う企業活動」を対象とした政策への展開の促進など、政策活用のための統計情報インフラの整備を進めていきたい。

2012年2月28日

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2012年2月28日掲載