特別コラム:東日本大震災ー経済復興に向けた課題と政策

復興にスピード感を

浜口 伸明 プログラムディレクター・ファカルティフェロー

生活再建に不可欠な就労機会の確保

津波によって被災した沿海部の地域では、難を逃れた人々が破壊された生活基盤を今後安心して暮らせる形に再建することが大きな課題になっている。この中には、高台への移住や防潮堤の建設、沈下した地盤のかさ上げなど多くの土木事業が含まれるが、生活再建のためには同時に就労機会を確保する経済問題にも対応する必要がある。ストックとしての住環境が回復しても、フローとしての所得の源泉が失われては生活が成り立たないことは言うまでもない。

ところが、この問題に対処するのは容易ではない。被災した多くの地域は震災発生以前から水産業を主産業としてきたが、これらの地域では高齢化や後継者不足という構造的な趨勢の中にあったことを考えると、よく指摘されるように、復旧がすなわち長期的に持続可能な姿を実現するということを意味するわけではなく、復興には創造性も求められている。阪神・淡路大震災後の経験を見ても、被害が少なかった大阪に雇用がある人々が多く住んでいる神戸東部や阪神間と、厳しい国際競争下にあったケミカルシューズ製造など中小企業が集積して職住が混在していた神戸西部を比較すると、その後の復興に大きな差が見られた。今回の震災ではこの困難さが地理的に非常に広範囲に起こっている。

万全な復興とスピードのトレードオフ

水産業は海に出て魚を捕ってくるだけではなく、そのバックヤードに多様な関連産業を抱える産業クラスターである。漁船の補修を担う造船所や鉄工所、出漁に必要な氷や漁具の供給者が必要なだけではなく、水揚げした魚を市場に流通させる仲買人、生鮮市場に流通する以外のいわゆる規格外品を引き受ける加工業者がなければ魚市場は成り立たない。さらにその先には観光客に地元の水産物を提供する観光サービスが存在する。

これまでもたびたび津波に襲われてきた三陸沿海地域には「津波てんでんこ」という伝承があり、肉親の安否よりも各人がまず自分の身の安全を確保しててんでばらばらに避難することによって、結果としてより多くの命が救われるという教えが伝えられている。しかし、復興に関しては「てんでんこ」ではうまくいかず、第1次産業から第3次産業まで広がる多様な事業者がクラスターとして一体的に立ち上がる必要があるのである。そこでは公共政策が重要な役割を持つだろう。

自然の脅威を目の当たりにした私たちが、将来を見据えて、被災地では堅牢で安全に万全を期した構造物を作るべきだと考えるのは自然なことである。しかし、その一方で、地元ではスピード感を求める意見があることにも耳を傾けなければならない。堅牢であろうとするほど費用も時間もかかるので、この2つには一定のトレードオフが存在する。

民間活力を利用した復興

水産業が盛んなある被災自治体の行政官から聞いたところによると、被災地には「復興したくてもできない」状況が生まれている。被災地では津波によって漁船や漁具が流され港の施設や加工場が破壊されたばかりではなく、地震による地盤沈下の影響が残り、満潮時には広範囲にわたって冠水が起こるなど被害は甚大である。地盤沈下した土地はかさ上げが必要で、被災した事業者の再建には莫大な費用負担が予想される。これまで地域の雇用を守ってきた地元の中小事業者を既存の制度よりもさらに踏み込んで支援することは、生活保護や失業手当などの消費を支援する施策よりも長期的な地域社会の維持に貢献するだろう。ところが、自然災害に直面しやすい一次産業と比較すると、これほど大規模かつ集団的な被害が想定しにくい商工業事業者への支援制度は相対的により手薄であると言わざるを得ない。

他方、自治体は安心・安全なまちづくりのために従来に増して堅牢な防潮堤を築き、地域全体の地盤のかさ上げを調整し、区画整理計画を進めるために、無秩序な開発を規制する建築制限を行っている。このため、設備投資を自力で行える事業者があったとしても、地域の計画と食い違えば投資は無駄になるので、手をこまねいてみているしかない。自治体はその心情を理解しながらも、政府の財政支援の規模とスケジュールが明らかにならないのでなかなか計画を実行することができず、政府の支援の迅速な実行が望まれている。震災によって行政機能が低下している自治体には、資金だけでなく人的な支援も必要であろう。

このような状況下で、震災直後の瓦礫が取り除かれた跡がいつまでも空白のままの被災地に広がる風景は、事業者の空虚な焦りを象徴しているように思われる。復興に万全を期すあまり、あまりにもスピード感を欠いたものになってしまえば、公的援助に頼らなくても再建する力がある事業者さえ立ち直るきっかけを失いかねない。水産業には地域間の競争があるので、復興が遅れるうちに、他の地域で同種の産業が発展してしまうかもしれない。休業している間の従業員の生活を保障できなければ、人口流出が起こってしまうことも恐れられている。高齢化している事業者が復興をあきらめてしまう可能性もある。せっかく時間をかけて堅牢な構造物を作ってもそこの産業が空洞化してしまっていては、この地域の復興は厳しいものとなるだろう。

復興行政は、堅牢性を重視する長期的なビジョンと同時に、このような状況に直面した被災地の焦燥にも配慮する必要があるだろう。被災地はすでにあまりにも貴重な多くを失った。しかし、被災地を訪れてみると民間事業者の活力は随所に残っており、これを最大限に活用するスピード感をもった支援が国に求められている。さらに被災者に寄り添って復興に情熱を燃やす自治体や民間組織が存分に活動できるように、思い切って権限を移譲して、地域が一体となって雇用を守ろうとする活動を支援すべきであろう。

2011年10月25日

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2011年10月25日掲載

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