ソーシャルネットワークサービス(SNS)におけるコミュニティの形成

松田 尚子
研究員

ソーシャルネットワークサービス(以下SNS)は、ここ数年で飛躍的に利用者を伸ばしている。facebookmixilinkedin等のサービスのおかげで、我々は離れた友人や家族と映像や近況をリアルタイムで共有することができる楽しみを享受しているが、今回は、それらのSNS上のコミュニティの形成原理について考えることにしたい。

SNS上のコミュニティとは、SNS上で趣味や関心事を共有するユーザーの集団のことを指す。魅力的な(高い信頼性や機能性、豊富な情報量等)コミュニティは、ユーザーがSNSに参加する主な動機の一つである。魅力的なコミュニティが形成されるようにSNSのシステムを設計すれば、SNS上のネットワークを繁栄させることができる。コミュニティ形成原理の解明が必要な所以である。

SNSにおけるコミュニティ形成の研究

SNS上のコミュニティ形成に関する研究は、L.A. AdamicがStanford大学内で利用されていたClub NexusというSNS上で、ユーザーがどのように行動し、結果としてどのようなコミュニティを形成しているかを発表したのが発端となったと言われている。L.A. Adamic et al.(2003)は、狭い関心分野のコミュニティほど(たとえばキャンプよりラテンダンスの方が)コミュニティ内のつながりが強いこと等が明らかにした。

コミュニティの形成過程については、松尾・安田(2007)がmixiのデータを元に分析している。mixi上で人気の高いのは、2006年当時であるが、資料になるウェブサイト情報や面白い画像を集める、あるいはMacユーザー等、話題が幅広いために多くの人の関心をひくコミュニティであった。これらの人気コミュニティは、時間とともに大きくなり、徐々により細分化された関連コミュニティ(Mac全般からiBookへ等)に分化した。ユーザーは、自分の興味をより的確に共有することができる、適度な規模のコミュニティに居心地の良さを感じるのである。

次にリアルな世界との関係についても、松尾・安田(2007)は、コミュニティ内での個人の結合性の分析を行い、結合性(n人からなるコミュニティでは、最大n(n-1)/2組の友人関係が存在しうるが、このうち実際に友人関係が存在する割合、すなわちコミュニティ内の友人関係の多さ)が高いことが、リアルのインターアクション(たとえばオフ会)に結びつくことを明らかにした。

またL.Backstrom et al.(2006)は、個人の日記や記事を中心に構成されるSNSであるLiveJournalについて、ユーザーがあるコミュニティに入るかどうかの予測モデルを作った。これによれば、ユーザーがそのコミュニティ内に友人を多く持つほど、またその中の友人同士がさらにつながっているほど、そのコミュニティに入る傾向が高いことを明らかにした。コミュニティに参加するかどうかは、その集団への信頼性(ここでは安心感ともいえる)がキーになるということである。

SNS上の友人関係については、K.Lewis et al. (2008)がfacebookのデータを使って、お互いの写真をSNS上で交換している友人関係は、交換していない友人に比べ映画、音楽、本などの他の好みも非常に共通しており、結びつきが強いことを明らかにした。逆は必ずしも真ならずではあるが、SNSのシステム設計の観点から言えば、密な友人関係のために、写真の掲載を容易にしておくことが大切なファクターとなる可能性が高い。

あるいは起業活動に望ましい影響を与えるコミュニティの研究として、S. Nann et al. (2010)は、ドイツのXingというビジネスSNS上の12の大学の同窓会を対象に、どの同窓会コミュニティが卒業生の起業家の成功をもたらすか分析を行った。これによれば、より閉鎖性が高く同窓会の中での人間関係が濃密なほど、起業家が成功しやすい傾向にあった。コミュニティ内の信頼があるので、資金集めや人材募集を容易にしたためだと考えられる。ただし、起業家の成功を企業規模等で5段階に分けた場合、最も成功した起業家達は、その下のレベルの起業家達よりも僅かだが閉鎖性が低いということも分かった。

起業活動を促進するSNS上のコミュニティ形成を目指して

このようなコミュニティ形成に関する研究を積み上げていくことで、SNS上のコミュニティ内により多くのユーザーを集め、友人関係を広げ、情報交換を活発化させることができるようになり、さらにリアルのネットワーク形成にもつながっていくことが期待できる。

筆者が特に注目しているのは、多々あるコミュニティの中でも、起業家のためのコミュニティである。起業を成功させる理想的なネットワークとは、西口(2007)の言葉を借りると、バランスの取れた「遠距離交際と近所づきあい」ということになる。起業家達の普段の「近所づきあい」の関係を深め、異業種交流会やビジネスマッチングなどの「遠距離交際」を成就させるSNSコミュニティがあれば、大いに起業活動の促進に貢献することになるだろう。

2011年10月5日
文献
  • 西口敏宏(2007)「遠距離交際と近所づきあい -成功する組織ネットワーク戦略」NTT出版
  • 松尾豊・安田雪(2007)「SNSにおける関係形成原理-mixiのデータ分析-」人工知能学会論文誌 22巻5号G
  • L.Blackstrom, D.Huttenlocher, X.Lan and J.Kleinberg, "Group formation in large social networks: membership, growth and evolution" in Proceedings of the 12th ACM SIGKDD international conference on Knowledge discovery and data mining 2006
  • K.Lewis, J.Kaufman, M.Gonzalez, A.Wimmer and N.Christakis, "Tastes, Ties, and time: A new social network dataset using Facebook.com", Social Networks 30 (2008) 330-342
  • L.A. Adamic, O.Buyukkokten and E. Adar,"A social network caught in the Web" First Monday 8 (2003) No6.
  • S. Nann, J. Krauss, M Schober, P. A. Gloor, K. Fischbach and H. Fuhres, "Comparing the structure of virtual entrepreneur networks with business effectiveness" Social and Behavioral Sciences 2 (2010) 6483-6496

2011年10月5日掲載

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