研究開発の外部連携とグローバル化

塚田 尚稔
研究員

はじめに

日本のイノベーションの低迷が懸念されている。総務省の科学技術調査研究によると、日本の研究開発費は2007年度の18兆9438億円をピークとして2年連続で低下している(総務省統計局 2010)。また、特許出願件数も近年では減少傾向である。

本稿では、RIETIで2007年に実施した「発明者サーベイ」の結果や特許の書誌情報のデータを使って米国・欧州の国との比較も交えながら、日本の研究開発活動に関するオープン化とグローバル化の状況について述べてみたい(発明者サーベイの詳細については、長岡・塚田(2007)参照)。

研究開発の外部連携の状況 - 日米比較

共同発明の状況については、特許の書誌情報から得られるデータもあるが、そこに記載されるのはその特許発明に本質的な貢献をした発明者のみである。しかしながら、発明の着想などの点で、それ以外のチームのメンバーも重要な役割を果たしている可能性があるため、発明者サーベイでは研究プロジェクトにおける研究者同士の協力関係に関して詳細に質問をしている。

その結果では、約13%の発明は、自社以外の外部組織の研究者を特許出願時の共同発明者として含む発明(以下、共同発明)である。また、協力相手が共同発明者にはなっていないが外部組織との間で何らかの協力があった発明(以下、外部協力)も約28%あり、合計すると40%以上が何らかの形での外部組織との連携によって生まれた発明であったことが分かる。発明者サーベイは、ほぼ同じ質問票を使って米国でも実施しており、その結果によると、米国では外部組織との共同発明が12%、共同発明以外の外部組織との協力による発明が22%、合計で34%の発明が外部組織との連携によって生まれている。従来から日本企業の研究開発活動は自前主義の傾向が強いといわれてきたが、上記のように、米国との比較において、三極出願特許に関する日本企業の全体の傾向としては外部連携が少ないとは必ずしもいえない。

図1には共同発明、または外部協力の相手はどのような組織に所属しているのか、その内訳を示した(連携相手は複数選択可)。日米ともに傾向はかなり似通っており、サプライヤーや顧客・ユーザーなど垂直的な関係にある企業との連携が大きな比率を占め、次いで大学との連携が多い。サプライヤーとの連携は日本の方が多く、顧客・ユーザー、大学等高等教育機関との連携は米国の方が若干多い。

図1:日米の共同発明、または外部協力の相手(複数回答可)
図1:日米の共同発明、または外部協力の相手

Walsh and Nagaoka (2009a)では、これらの点についてより詳細に分析している。共同発明、特に垂直的関係の共同研究は大企業と比べて中小企業の方が多いことや、外部連携の頻度は技術分野別に大きな差があり、大学との連携はバイオや医薬品分野で多いことなどを指摘している。また、日本では異なる類型の組織との連携、特に垂直連携によって生み出される発明は経済的価値の高い傾向にあるとの推計結果を示している。

研究開発における外部連携は、技術のニーズ、シーズの正確な把握や自社の研究開発活動のための人的資源の不足を補うことでイノベーションへの障害を克服するための重要な手段として活用されていると考えられる。

研究開発のグローバル化

生産ネットワーク国際化、貿易の進展によりグローバル化が進む中、現地の市場に合わせた商品開発などのために、研究開発の外部連携の相手も国際化するのが自然であると考えられる。研究開発のグローバル化の進展度合いを、特許データからみてみよう。

Tsukada and Nagaoka (2010)では三極出願特許のデータを用いて日米欧の共同発明について分析を行っている。発明者の人数と居住国情報を使って、三極出願特許を単独発明、国内に居住する発明者同士による共同発明、海外居住の発明者との共同発明の3つに分類(注1)した。図2のように、日米欧の5カ国では単独発明の比率はあまり変わらないが、国内共同発明と国際共同発明(注2)の比率は各国ごとに大きく異なることが分かる。そして図3に示したように日本以外の4カ国では国際共同発明が大幅に増加しているが、それとは対照的に日本ではほとんど変化がない。先にみたように日本では研究開発の外部連携は行われているものの、特許データから把握する限り、グローバル化はそれほど進んでいないといえる。

図2:三極出願特許の発明の構成(2000~2005年)
図2:三極出願特許の発明の構成(2000~2005年)
図3:三極出願特許の国際共同発明の推移
図3:三極出願特許の国際共同発明の推移

また、日本と米国を比較すると発明者のライフサイクルでの発明件数にも大きな違いがみられる。発明者サーベイに回答した発明者のクロスセクションでのデータによると、日本の発明者の方が米国よりも若いうちに発明を始めている(注3)。米国の方が企業での研究開始年齢が遅い傾向にあるのは、米国の方が研究者における博士号取得者の比率が高いことも一因であるが、日本では研究成果を出すピークの年齢も若い(Walsh and Nagaoka (2009b))。日本ではある程度の年齢になると研究開発のマネジメント等の業務が中心となり、実質的な研究活動にあまり時間をさけなくなっている可能性も考えられる。研究開発プロジェクトにかかわる研究者数や研究にかけた時間は、プロジェクトから派生するアウトプットの量や質と非常に高い相関がみられ(Walsh and Nagaoka (2009a), Tsukada and Nagaoka (2010))、より多くの質の高い研究者をどのように確保するかは、非常に重要な課題である。

自社、または自国に存在する研究開発のための人的資源の不足を補う必要があるならば、国外を含めて外部の人材との協力態勢を積極的に構築する必要がある。少子高齢化の影響もあり、日本国内では長期的には研究の担い手が不足することも懸念される中で、女性研究者が非常に少ない問題(発明者サーベイでの女性回答者は約1.5%)の改善、企業での博士号取得者の積極的な活用、外部連携の強化や研究者が長期的に発明活動に従事できる体制を整えることなどが、日本の研究開発力の長期的な基盤強化につながるのではないかと考えられる。

2011年9月20日
脚注
  1. ここでは自社内の発明者との共同発明、及び社外の発明者との共同発明の区別はしていない。
  2. たとえば、日本の発明者と米国の発明者による国際共同発明は、どちらの国でも1件とカウントしている。
  3. より詳細な分析を、発明者サーベイのプロジェクトメンバーが現在進めている。
文献

2011年9月20日掲載

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