転機を迎えた「産業政策」のあり方:投稿意見

大橋 弘
ファカルティフェロー

産業政策評価の危うさ

上席研究員・埼玉大学名誉教授 小野五郎

大橋氏が指摘するとおり、産業政策が過去に一部過大評価がされていたことは事実である。といって最近の「実証に基づく」という消極的評価にも問題が多い。その背景には近年の計量分析やゲームなどに対する過大評価がある。日本評価学会設立に参加した者からすれば、本来評価手法そのものが多種多様な上、評価時点や評価主体によって結果が逆様にもなりうる。すなわち、計量分析やゲームなどは全評価体系のごく一部を占めるにすぎない。その点、何とはなく時流に乗っての批判のための批判(逆に擁護のための擁護も)とか数式や数値ばかりを弄ぶのは危険である。

なぜなら、政策評価というものは、定性分析と定量分析両面から行ない、両者にズレがある場合には、原因をまず突き止めるべきだからである。評価において不可欠な「ウィズ・ウィズアウト」分析では、異時点間や政策導入国と非導入国の比較検証、当該案件についての投入産出分析やゲーム分析などが同時併行して行なわれるべきである。と同時に、成否の原因が当該案件に内在するのか、外部条件によるのかも解明しなければならない。さもないと結果オーライが見逃されたり、良好案件が酷評されることになりかねない。

その点、現実の政策評価では、投入情報や設定条件がかなり恣意的に選択されている。積極的・消極的いずれの立場から評価する者であれ、先に有する結論に合わせて情報や条件を選定しているように見える。それゆえ、いつまでも政策現場の人間と理論家との間で不毛な議論が繰り返されるのである。「政策とは組織と過程だ」という筆者からすると、政策現場経験者であって、なおかつ現場に対して冷酷な評価を下せる人材を発掘することが先決である。いずれにしても、今や、かつての「産業政策とは通産省の政策」を出て、財務省政策研で筆者が提唱した土建・農業から福祉・教育に至る全政策分野に対象を拡大しなければなるまい。

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