国立大学附属病院の現状と課題―法人化によって本当に変わるのか

川渕 孝一
ファカルティフェロー

ポーター仮説と理論的・実証的論争

平成16年4月から国立大学は、非公務員型の独立法人に移行することが決まっている。文部科学省は今10月に法人化する国立大学・短大計89校の「中期目標・中期計画」の素案を公表した。中には一定の数値目標を示して、マネジメント発想を導入しようとする大学もあるが、大半は「差しさわりのない」文言を並べただけという所が多い。その理由は法人化後の大学の姿、さらにはお金(運営交付金)の流れがいまだに見えてこないからである。特に、病院を有する大学は収入の大半を医業収入と補助金に委ねているので、1つ間違うと「倒産」する危険性がある。そのため、ますます慎重にならざるを得ない。

平成14年3月26日に文部科学省が出した「新しい『国立大学法人』像について」によれば、大学法人化以降も「附属病院等の教育研究施設については、従来、大学の教育研究活動と不可分な関係にあるものとして位置付けられてきたことを踏まえ、大学に包括されるものとして位置付ける」としている。しかしながら、同報告書では「大学の施設等のうち、運営の実態や独立採算の可能性等を踏まえ、より柔軟な運営を実現するなどの観点から、特定の施設等を国立大学法人から独立させ、別の種類の法人とするとともに、必要に応じて国立大学法人がこれらの法人に出資できることとする」とも言っている。

こうした流れを受けてか、名古屋大学は来春をめどに医学部の診療部門と研究部門を分離、附属病院の独立性を高める組織改革に乗り出すという。附属病院の予算執行権や人事権を学部長から病院長に移管する方向で調整中とのこと。来春の独立行政法人化で迫られる大学病院の“自立”に向けた先駆けとなる改革で、国公立大学が医学部の「診療」と「研究」を分けるのは全国で初めてである。

まさに、国立大学も動き出したわけである。そこで筆者は、国立大学医学部付属病院(医病)・歯学部附属病院(歯病)について、一定の経営指標を利用して病院のランキングを試みた。

医業収支率から見た病院ランキング

表1はその結果を示したものである。医病では筑波大学がトップで次いで大分大学、山梨大学の順になっている。一方、歯病では大阪大学が一番経営成績がよく、次いで、東京医歯大、新潟大学の順になっている。といっても、全て100%を下回っており、国立大学附属病院には黒字は存在しないことがわかる。

これは、国立大学附属病院における医療の提供は、教育、研究と一体となって行われているために、診療収入だけではペイしないからだとされる。その結果、国立大学附属病院には多額の一般会計の繰入が行われている。表2は、経常収支率に占める補助金収入の割合を示したものだが、医病では、東京大学が42.8%とトップを占め、以下、東京医歯大、大阪大学と続いている。ここで興味深いのは医業収支率の低い大学は経常収益に占める補助金収入の割合が総じて高いということである。つまり、国立大学は医業収入の赤字を「税金」で埋め合わせしているのである。それでも、資金が足りない9大学病院は債務超過(負債総額が資産総額を上回っている状態)に陥っている。中でも、自己資本比率がマイナス35%を上回っている大阪大学医学部附属病院は財務的には「危機的状態」にある。民間企業では「整理回収機構」に回ってもおかしくない。大阪大学の歯病の自己資本比率が30.2%であることを考えると、医病と歯病では対照的な状況にあるといえる。現在、全国的に医病と歯病を統合する動きがあるが、経営成績が歯病ではトップの大阪大学歯学部附属病院にとって医病との統合は必ずしも得策ではないといえる。これは東京医科歯科大学においてもいえることで、事実、この2校は賢明にも統合の道を選択していない。

表1 国立大学医学部付属病院の医業収支率、表2 国立大学医学部付属病院における経常収益に占める補助金収入の割合

求められる証明責任

従来、国立大学附属病院の再開発や高度医療機器の購入は国の施策として行われてきており、本来、国の予算で賄われるべき資金が、施設等の整備に伴う病院収入増を担保に財政投融資金から借入金によって賄われてきた。現在の財政投融資金の償還については、文部科学省において、附属病院を有する42大学それぞれの借入額に応じた償還額を算出し、償還に当っては42大学の合計額を病院収入の中から、文部科学省が一括償還を行っている。

しかし、こんな仕組みをいつまで続けるのだろうか。かりに、国立大学病院の方が私立大学病院より患者の重症度が高いということであれば、今4月から始まったDPC(診断群分類)でケースミックス・インデックスを計測して、国民の前にその事実を明らかにすべきであろう。私立医科大学とのEqual Footing(同じ条件設定)が求められる中で、国立大学附属病院といえども医業収支率を改善する動きが求められる。

2003年10月21日

2003年10月21日掲載