碩学の死を悼む:Robert Emil Hudec (1935-2003):投稿意見

荒木 一郎
上席研究員

一生徒から見たHudec教授

タフツ大学フレチャースクール 稲邑拓馬

授業を受けるまでは「Hudec先生が(悪名高い)米通商法301条を擁護している」という評判を聞いていたので、「米国寄りの議論をする学者」と構えてましたが、実際に話を伺うと具体例を示しながら非常に論理的に自説を展開され、私は感銘を受け、また、伝聞だけで学者を「何派」だとか「何寄り」と判断をすることは馬鹿げていると感じました。先生の話は、生徒の意見を頭ごなしに否定せず、そのどこが弱いのかを、事実に触れながら論理的に説明するのが特徴でした。課題の論文も、書き直すたびに先生から弱い点を徹底的に衝かれ、非常に苦労しました。

事実・論理に厳しい反面、先生は生徒にとても親切で、相談に行くと2時間以上もお相手をしてくれることも度々でした。また、先生はユーモアのある方で、退屈になりがちな通商法の授業や論文の中にも面白い表現を入れ、生徒・読者を楽しませていました。私が通産省の所属であることを伝えると、次のようなジョークを披露されました。「かつて日本経済の成長が奇跡と称され、通産省(MITI)がその成功を支えたと喧伝されてたころ、日本に対抗するために英国貿易省(Department of Trade and industry:DTI)の名前の"Trade"の前に"International"を追加しようと提唱した人がいたんだ」。理由を聞くと、先生は「それは略称がDITI(ディーティ。deity=神と同音)となるからさ」と悪戯っぽく笑われました。

1月ほど前に先生に最後にお会いしたときも、精力的に研究・執筆をされているご様子で、最近は「WTOと途上国」問題に関心をもたれていました。途上国のWTOへの失望感・不信感が現在のラウンド交渉がスタックしている一因であることを考えると、先生がこの問題に引き続き取り組まれていればラウンド交渉の進展に寄与されたのでは、と残念でなりません。

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