投資自由化で更なる発展:APEC経済委員会報告

川崎 研一
客員研究員

本年のAPEC首脳会議は、10月26、27日、ロスカボス(メキシコ)で開催された。これに先立つ閣僚会合、高級事務レベル会合では、本年のAPECにおけるさまざまな活動につき、報告、討論が行われた。APEC経済委員会からは、主要な研究の1つとして、APEC投資自由化・円滑化の経済効果分析が報告された。本分析は、この2年間、我が国(経済産業省)がとりまとめることとなり、私を中心とする研究チームが実際の作業を行った。以下、その概要を記したい。

APEC高級事務レベル会合 看板

分析の動機・目的

APEC地域は、1990年代には、世界経済の中でも最も著しい発展を遂げてきた地域である。その原動力としては、域内への直接投資の増加、生産の拡大、輸出の増加の好循環が指摘されている。1997年に起こったアジア通貨危機は、短期的に引き上げられてしまう投機的資金に比べて、長期的に安定であり、成長に寄与する直接投資の役割を改めて認識させられる機会となったとも言えよう。

しかしながら、投資の自由化に当たっては、依然として国内産業保護の観点などから、抵抗感があるかも知れない。そのような漠然とした不安を払拭するためには、実証的かつ定量的に、投資の自由化・円滑化の経済効果を示すことが重要となる。このため、本研究では、そのような定量的な分析を行うことを主な目的としている。経済大の効果を推計する際には、応用一般均衡世界貿易モデルを利用している。

投資障壁の定量化

本分析において特筆されるべき貢献の1つは、APEC地域における投資障壁の度合いを数量化したことである。APECにおいては、ボゴール宣言で目標とした貿易・投資の自由化を進める際、その進捗状況を個別行動計画(IAP: Individual Action Plan)として、毎年、とりまとめている。本分析では、このIAPに記された投資障壁を定量化することを初めて試みたのである。

投資障壁とは、どこに、どのような形で投資を行うかといった決定を行う際、これに影響を及ぼすような政府の政策の全てを指す。UNCTADによれば、そのような投資障壁につき、投資行動のどの側面に影響を及ぼすかによって、参入、所有・管理、運営といった段階での類型化を行うことができる。我々は、これまでの分析で用いられているフリークエンシー・カバレッジ手法により、2001年版のIAPの情報を定量化した。この手法によれば、定量化された障壁の度合いは、各国・地域間、また、各産業間で、相対的に比較することが可能である。

定量化された結果をみると、ほとんどのAPEC経済が、何らかの分野で依然として一定の障壁を残している。全ての産業分野において、ほとんどそういった障壁が見られないのは、香港とニュージーランドぐらいである。産業別には、運輸、通信、金融・証券など、サービス産業における投資障壁の方が、高くなっている傾向が見られる。

投資自由化・円滑化の経済効果

定量的なモデル・シミュレーションの結果からは、2つの重要な点が指摘されている。第1に、投資の自由化・円滑化は、APEC経済の全てに便益をもたらすことである。第2に、投資と貿易の間には補完関係があると考えられることである。

APEC高級事務レベル会合 会場風景

投資の自由化・円滑化による実質GDPの増加効果には、APECメンバー間で多少の差異があり、3%程度からほぼゼロとなっている。現在の投資障壁が高い国ほど、これを削減することにより得られる便益は大きくなることが期待される。また、そのような経済効果は、投資の自由化・円滑化に先立つ対内・対外直接投資による資本ストックの相対的な大きさにも依存する。総じて、APEC経済の中では、発展途上経済の方が、経済効果が相対的に大きくなる傾向が見られる。

投資の自由化・円滑化の結果、資本ストックが増加することを主因として、APEC域内全体のGDPは控えめに推計してみても、0.3%程度増加する。その一方で、輸出入数量も増加し、APEC域内の貿易量は0.5%程度増加する。これらの結果は、直接投資の増加は、貿易を喪失させるものではなく、創出させるものであることを示していると考えられる。

今後の課題

最後に、本分析については、1つの重要な限界を認めなければならない。IAPの情報は、各メンバーが自主的に提供するものに基づいている。これでは必ずしも完全ではなく、各メンバーの間の情報に整合性が確保されていないのである。従って、本分析で定量化された投資障壁の度合いは、現実を忠実に描写していない可能性がある。

より正確に経済分析を行うため、また、何よりもボゴール宣言に向けて、我々がどのような位置にいるのか知るためには、IAPの情報がより包括的であり厳密なものとなることが期待される。

他方、IAPの情報は、APEC経済の行動を反映し、毎年、更新されていくものである。従って、定期的にこれらを再評価することも重要と考えられる。

2002年10月29日

2002年10月29日掲載

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