1兆円規模の研究開発投資減税を!

玉田 俊平太
研究員

最近のアンケートによると、小泉内閣に望むこととして、従来の「経済構造改革の推進」と並ぶかそれ以上の率で「景気対策」を望む声が強い。実際、本稿のタイトルの「研究開発投資減税」を「公共事業」に変えると、なにやら選挙前の某政党のスローガンのように聞こえるから不思議なものである。そこで、本稿では研究開発投資減税と公共事業の政策効果を、「短期的景気刺激効果」「長期的経済成長効果」「構造改革促進効果」の3つの観点から対比し、「研究開発投資減税」が、いずれの観点からも公共事業と比べて優れた効果を持つ政策であることを論じたい。

はじめに

まず、研究開発投資減税について簡単にその内容を説明する。これは、厳密には「試験研究費の税額控除制度」といい、会社等が「試験研究費」の定義を満たす活動を行なった場合、その一定の割合の金額を、本来払うべき法人税額から控除、すなわち、差し引いてもよい、という制度である。もっと簡単にいうと、たくさん研究開発をした企業は、より税金を払わないで済む、という制度である。

中小企業の場合、制度は単純明快で、行なった試験研究費の1割が控除できる。

問題は、日本の社内使用研究費用の約95%を占める大企業の試験研究費に対する制度である。現行の制度は、かなり複雑になっており、最近の大企業に対する税額控除額はわずか約310億円、大企業の約10兆円の社内使用研究費に対するインセンティブとしては、0.31%に過ぎない。これでは、会社に勤める日本人の約半分を雇用し、給与を払っている企業のイノベーションに対するインセンティブとしては、あまりに小さすぎるのではないだろうか。私は、いっそのこと、大企業も中小企業と同様、研究開発費の10%の税額控除が可能な制度に改正して、1兆円規模の減税を行ってはどうかと考える。付け加えるなら、「試験研究」の定義をソフトウェアの開発や金融・運輸等のサービス産業におけるビジネスモデル研究開発等にも対応できるよう改める必要もあろう。

短期的景気刺激効果

最新の産業連関表によれば、公共事業を1単位行うために投入される品目は、砂利・砕石が2.1%、生コンクリートが3.9%、セメント製品が4.5%、建設用金属製品3.6%、卸売6.6%等きわめて偏った部門で52%を占めており、賃金・俸給に回るのは30%に過ぎない。

それに対し、研究開発は施設整備等による直接景気刺激効果に加え、賃金・俸給に42.5%が回り、雇用促進効果の人数面でも、給与を通じた景気刺激効果の面でも、研究開発の方が優れていることがわかった。

長期的経済成長効果

1997年7月の連邦議会での証言でグリーンスパン議長は、「米国の国内総生産(GDP)を見てみると、GDP全体の総トン数(重量)はここ半世紀ほどほとんど変化していないが、ドル換算した価値はドラマティックに増加した。生産されたモノ自体の重量が増えないのに価値が飛躍的に増加した要因は、アイデアあるいは知識にある」と述べた。この進化の結果、製品の重量が軽くなり、製品に高度な技術や知識が埋め込まれている「ナレッジベーストエコノミー」が到来したといえる。研究開発は、こうした「ナレッジベーストエコノミー」の基盤となる「知識」を生み出す活動であり、その促進は、企業内に見えない資本となって蓄積され、将来の長期的経済成長の原動力となると考えられている。一方、例えば公共事業で巨費を投じて本州と四国の間に橋を3本掛けたことによって、わが国の生産性が向上し、一人当たり所得が増加したという話は寡聞にして知らない。

構造改革促進効果

税額控除制度というのは、その制度上「黒字企業」しかメリットを享受することができない。なぜなら、赤字企業は、払うべき法人税がなく、必然的に税額控除を受けることもできないからだ。すなわち、この税制は、「強者をより強くする、弱肉強食の税制」であるのだ。しかも、企業それぞれの戦略に基づく独自の自主研究開発を支援するという意味で競争制限的要素もなく、且つ、平等な制度でもある。別名、「構造改革促進税制」と呼ぶことも可能であろう。一方、公共事業は、日本でも競争力が弱いといわれている建設業を中心とした企業に支出が行われる。いわば、弱者延命政策である。構造改革に逆行していることは明白であろう。

おわりに

以上、研究開発投資促進減税の公共事業に対する優位性について簡単に述べた。財源としては、今年度であれば「節約」と呼ばれる行政指導を予算のすべてに1%掛けることにより、約8千億円が捻出可能である。一時は1千億円以上あった減税額が300億円近くまで減っているのであるから、残り2千億円は、純粋な減税措置として政府による大胆な実施を期待したい。

2002年5月21日

2002年5月21日掲載